新日鉄住金に見る 情報流出への日米の対応差
もっとも、事件は似ていても、日本と米国では、それに臨む官民のあり方が大きく違っている。
旧新日鉄は、世界の競争相手がどこもマネのできなかった製造技術にポスコが短時間で追いついたことをいぶかしく思っていたが、決め手となる証拠を入手することができなかった。実情が判明したのは、韓国にとって民族の誇りともいうべきポスコの製造技術を社員自らが中国企業に売り渡すというスキャンダルの副産物だった。
起訴された被告人が、自分が窃取した営業秘密はポスコのものではなく旧新日鉄のものだったと公開の法廷で陳述したために、旧新日鉄が事件の全体像を知るところとなったのである。
韓国の司法当局が熱心に捜査・起訴をしなければ、事件は永遠に発覚することなく終わったであろう。
これに対し、米国のデュポン社は、自社の営業秘密が漏洩しているとの疑いを持つやいなや、FBIに通報している。デュポン社が提起した民事訴訟と並行して米国司法当局による刑事手続も進んでおり、今年4月末、法人としてのコーロン社は、罰金の支払いで当局との和解に達している。
しかも、営業秘密窃取を主導したコーロン社の元従業員はそれとは別に起訴されており、仮に有罪になれば、25年ないし30年という、極めて重い実刑を科される可能性がある。
米国と韓国の間には犯罪人引渡条約があるので、経営幹部にまで上り詰めた元従業員は、いまだに、枕を高くして眠れないはずである。
実はこの点に、日米の違いが集約的に表れている。