2024年12月3日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2015年11月1日

 米国発の「シェール革命」に端を発する急激な原油安。その連鎖反応で現在痛手を受けているエネルギー超大国ロシアの話(「エネルギー超大国ロシアの内実をさぐる」)を前回、ご紹介した。

『シェール革命再検証』(編集・ 小山 堅、エネルギーフォーラム)

 『石油国家ロシア』で描かれたロシアと、ロシアを取り巻く世界の姿が「シェール革命前」のものとすれば、本書『シェール革命再検証』に描かれる米国と、米国を取り巻く世界の姿は「革命後」のものである。「革命」の真の意味を理解するためにも、革命前後の様相をあわせてお読みいただきたい。

わが国における第一線の専門家の知見を編む

 こんにちの世界のエネルギーのみならず、政治、経済、外交を語る上で、欠かすことのできない最重要事項が、シェール革命である。

 米国でかねて知られていたシェールガスやシェールオイル(軽質タイトオイル)などの非在来型資源が、水平掘削や水圧破砕法などの技術革新によって、経済性を保ちながら開発可能となり、生産が拡大してから、まだ十年を経ていない。

 にもかかわらず、米国の石油、ガス生産量は専門家の予想をはるかに超える速さと規模で拡大し、エネルギー需給構造全体を劇的に変化させた。

 2014年後半からの急激な原油価格低下への影響も含め、世界を根底から変貌させつつあるこの革命については、すでに多くの分析が出ている。そんななか、本書は、最新の情勢分析に基づき、わが国における各分野の専門家の知見を結集させた点が、ユニークである。

 2013年、東京大学公共政策大学院において、国際石油開発帝石株式会社による寄附講座のもと、東京大学、政府、産業界などから20人の有識者が集う研究会が組織された。月1回の議論や国際シンポジウムの成果を踏まえ、研究会の有志が各専門分野の現状分析、将来展望を論じている。

 おもなポイントは、①米国、米国外でのシェールガス、シェールオイル生産の将来展望、②シェール革命による国際エネルギー市場への影響、③米国経済と世界経済への影響、④国際政治、地政学への影響、⑤前記4点の日本への影響とそれを踏まえた日本の戦略--である。

 各執筆者はおのおのの分野の専門家として個人の分析に基づいて筆を執っており、同じ問題を扱っても、章により見解が異なる場合がある。例えば、アジアLNG市場への影響を論じた第3章と4章とでは、逆の見解が述べられている。

 それだけ複雑な問題であり、将来予測には不確実性がともなうのが当然で、むしろ、そうした複雑さを理解しつつ両論の比較検討をすることで、読者なりの情報収集、分析ができるのではないだろうか。


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