OPEC加盟国で異なる事情
このように、各章の担当者がそれぞれの現場経験や知見をフル回転させて鋭い現状分析をしているので、話が具体的でしろうとにもわかりやすい。
例えば、シェール革命の国際石油市場への影響では、OPECの政策転換により、需給が均衡する価格は市場のメカニズムで決められることになった。OPECが減産をしない以上、OPECがシェアを維持しつつ他の供給者の生産が需要を満たす水準がいわゆる需給均衡価格となる。国際機関やシンクタンク、金融機関などが見込みを発表しており、「2016年では、ブレント原油でおよそ70ドル/バレル程度の想定が多いようである」。
「ただし、需給が均衡する価格は一点と認識すべきでは無かろう」と、著者はみる。ある程度の幅のW字サイクルを繰り返して収束していくこと、また、先物市況の構造自体も影響を与えること、さらに、OPEC加盟国でも事情の違いがあることを考慮する必要がある、というわけである。
サウジアラビア、UAE、クウェートなどのOPEC主要加盟国は潤沢な外貨準備金をもつので財政に余裕があり、「油価が低迷しても、単独では減産しない」という戦略をとっているが、この戦略は「シェアを維持するための代償としては、非常に大きいと言えよう」。
財政事情の悪いベネズエラやナイジェリアなどについては、「低価格の継続は更に深刻な問題をもたらす。その程度によっては、OPEC内の結束にも亀裂が生じかねない」とみる。「もし、油価低迷が長期間にわたる場合には、同じく低油価の影響が大きいロシア等の産油国と協調して、相場を反転させるためにOPECが減産という選択肢を取る可能性も否定は出来ない」。
他方、イラクは全く異なるポジションにいる。「油価下落で減少した収入を補うために生産を増やすモチベーションが強く、今後も能力の拡大に伴って、低油価でも原油生産量を増やしていくと思われる。OPECにとっては放置できない課題となって来よう」としている。
「シェールオイルの存在は、供給途絶時には大きな価格安定化効果を及ぼし、石油市場が吸収できる地政学リスクの許容度を高めることに貢献している」のは事実であるが、エネルギー輸入大国日本としては、石油供給を制限する要因となりうる地政学リスクに引き続き注意が必要である。
本書では、中東情勢のほか、過激派組織「IS」の動向、さらにウクライナ問題や北極圏の資源開発にも言及し、世界、そして日本への影響を多角的に展望しており、参考になる。