自動車メーカー各社が四半期ごとの業績を発表する中、心配された通りフォルクスワーゲンは34億8000万ユーロの赤字となった。ディーゼル排ガス不正問題への対応費用として9月に発表していた65億ユーロよりさらに上積みした67億ユーロを計上したことが大きな原因であるものの、実際のリコールや各訴訟への対応、そして米国環境保護局(EPA)に始まり、世界各国の環境規制当局から課される罰金など、この問題にかかる総費用は300億ユーロにも達すると言われており、VWは史上最大の危機に直面している。
GMよりも Too Big で潰せないワーゲン
しかし、米国でゼネラルモータース(GM)とクライスラー(現フィアット・クライスラーFCA)が経営破綻したときにその影響の大きさから米国政府が支援して再建させたようにVWの存続はドイツにとって、いやドイツだけでなく欧州にとって、また中国やメキシコ、ブラジルなど多くの国にとっても重要な問題であり、むしろGMよりもっと「大きすぎて潰せない」(Too beg to fail)ということになりそうだ。 苦しい道程ではあるだろうが、多くの素晴らしい技術を持つ自動車産業のリーダーの一人であるVWには生き延びて再び活躍してもらわなければならない。
先日VWはディーゼル中心から電気自動車(EV)重視への方針転換を発表した。今後世界中の規制当局の厳しい監視下に置かれながらディーゼルの排ガスをクリーンにする努力とEVへの転向は同じくらい大変なことだろうが、電力供給まで含めたエネルギー・サイクルという面ではEVだって完全にクリーンというわけではなく、またその普及には多くの高いハードルがあるわけで、クリーンディーゼルが簡単にEVに置き換えられるわけはない。
さらにディーゼルを諦められないお家の事情は欧州の他の自動車メーカーにも深刻な問題なのである。その上、米国のように排ガスについての議論はもう終わったかのように燃費性能の数字だけで環境対応のレベルを議論している国でも、今回のディーゼル排ガス不正問題をきっかけに、「ところで最近主流になりつつある気筒数を減らして過給器(ターボチャージャー)の助けを借りることで馬力を確保するという小型ガソリンエンジン車の排ガスは本当にクリーンなのか?」という疑問が消費者の中から出てきても当然だ。つまり、ディーゼルエンジンの危機は燃料直噴式ターボ付きガソリンエンジンの危機にもなる可能性があるというわけだ。
消費者は必要なコスト負担をすべき
充電インフラ整備が難しい米国などEVの普及が望み薄の市場では内燃機関に頑張ってもらわなければクルマ社会が維持できないのだが、そのためにはEVや燃料電池車が選択肢のひとつとしてもっと存在感の大きいプレイヤーとなるまでは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンに頑張ってもらわなければならない。
私は今回の「事件」のせいでクリーンディーゼル車が消えてしまうとは思わない。むしろこの問題をきっかけに、私たちの生活に不可欠な(クルマは不要というのはニューヨークや東京などの大都会だけの話であって、世界中の人々にとってクルマはこれからも役立つ道具であり続けるはずだ)自動車が低燃費で(化石燃料を節約できて)、クリーンで(排ガスが地球環境に及ぼす影響が少なくて)ありながら人とモノを運ぶ十分な能力を持ち続けるためには、「燃費を向上させる」、「有害な排ガスを減らす」技術をもっと採用することが必要であって、消費者はその自動車を所有してその能力を利用するために必要なコストを負担する覚悟が必要だと認識しなければならないだろう。
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