今年上半期の世界販売台数が504万台を記録して502万台のトヨタを上回り、フォルクスワーゲン(VW)が念願の販売トップになったという報道がまだつい先日のことだったような9月18日、米環境保護局(EPA)が衝撃的なニュースを発表した。
フォルクスワーゲンが売り物にしてきた2リッターディーゼルエンジンTDIを搭載したモデルのうち米国で販売された50万台近くについて、排ガス制御ソフトウェアに排ガス測定試験のときだけ働くアルゴリズムを搭載していたというのである。
これはクルマがEPAの排ガス測定試験を受けていると判断して排ガス中の窒素酸化物(NOx)を基準値内に収まるようにし、一般走行時にはEPAやカリフォルニア州の定める規制基準値より最大で40倍ものNOxを排出していたという。ちっともクリーンでないディーゼルだったわけだ。その後この不正なソフトを搭載したクルマは世界中で合計1100万台にも昇ることが分かった。
デトロイとでも話題に
VWの失策で得をするブランドは?
さて、この「事件」については既に日本でもたくさん報道されているから、その繰り返しになるような説明はここでは避けたいと思う。報道されていることの解説を試みるのではなく、デトロイトに住む私にとってこの問題がどう見えるかについて数回に分けて書いてみることにしよう。
日本だけでなくデトロイトの自動車メディアもVWの失敗によってどのブランドが得をするかという話題を取り上げている。デトロイト3のクルマや韓国ブランドのクルマならいざ知らず、ドイツ車を買う人々の「ブランド信奉」というのはこれくらいのことでブランドから離れたりはしない。
VWファンがデトロイト3や日本車へそう簡単に乗り換えるわけがないのだ。かつてホンダ車のオーナーたちがそうであったように、VW車に乗っている人々は自らを「クールだ」と思っている。ドイツ車のVWを選ぶ自分がクール(かっこいい)なのである。VW車がクールなのではない。したがってブランドとしてVWのライバルになれるのはアウディ、BMW、メルセデス・ベンツであり、これらは全て高級車なので、結局VWにはライバルがいないということになる。
ただ、アメリカ人の中にそういう人々は決して多くなく、スバル車のファン、いわゆるスバリストよりやや少ないくらいだ。VWファンでディーゼル車TDIモデルに乗っているかこれから買おうと思っていた人が代わりに選ぶのはやはりVWのガソリン車ということになると私は思っている。
だから、トヨタやマツダやホンダがVWの失敗を機会にお客が乗り換えてくれることを期待しているとすると、残念ながらそれほど多くのVWドライバーを自分たちのショールームに迎えることはないだろう。
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