2024年11月16日(土)

WEDGE REPORT

2015年10月31日

 フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正スキャンダルは当初ヴィンターコルン社長の辞任が発表された後、VWグループ各ブランドの開発担当トップが処分され、ついにはヴィンターコルン氏がVWだけでなくグループ内の全ての役職を退くということになった。

 VWはこれから各国規制当局からの制裁、罰金、損害賠償を求める多くの訴訟に長い時間をかけて対応していかなければならない。いくつかのブランドを売却しなければ存続も危ういとまで言われている。不正とは無関係で世界一を目指して頑張っている多くのVW社員たちが背負う重荷のことを思うと、少しでも早くこの問題が彼らにとって過去のものとなる日が来てくれることを祈る。

辞任したマルティン・ヴィンターコルン氏(画像:Getty Images News)

 それにしてもVWの人々が悔しいと思っているのは、自分たちの仲間の一部が不正に手を染めたということだけでなく、スキャンダルが世界中に知れ渡るきっかけとなったのがドイツ人でも日本人でもないアメリカ人だったということではないだろうか。

 アメリカ人にもドイツ人にも多くの友人がいる私はひそかにそう思っている。それこそドイツ人のプライドなのだろうし必ずしも悪いことではないと思う。むしろ日本人こそもう少し自分たちの素晴らしさを主張してもいいと思っているくらいだ。

 ではドイツのほうがアメリカより「規制」が厳しいかというとそれはケースバイケースなのだろう。排ガス基準にしても規制の仕方が異なるので単純に比較はできないが、アメリカのほうが少し厳しいところも少なくない。

EPAを騙すとは「いい度胸してるなあ」

 だが、アメリカでやってはいけないのは空気と水を汚染することだ。米国環境保護局(EPA)の規制基準に違反したときの罰則は運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)の比ではない。もっとずっと厳しいのである。EPAを騙すなどというのは、それこそ「いい度胸してるなあ」なのだ。

 おかげで欧州連合各国の規制当局はアメリカのEPAに負けないほど厳しく取り締まらなければならなくなったわけで、これで迷惑なのはおそらく欧州の他の自動車メーカーなのではないだろうか。これから世界中で小型ディーゼルエンジンの排ガス試験が厳しく実施されるようになると、各社にはそれに対応するために大きな負担がかかることになる。皮肉なことに規制対応するための費用を捻出する余裕を一番持っているのはたぶんVWだ。

 日本ではそもそも個人輸入車以外にVWのTDIディーゼルエンジンモデルは走っていないだろうから、来年早々に始まるVWのリコール対象となるクルマが少ないのだが、それでもマツダなどが真剣に取り組んでいるクリーンディーゼルのイメージにまで悪い影響が及んでしまうことが心配だ。では、小型のクリーンディーゼルエンジンというのはこれですっかり信頼されなくなってしまい、普及しないということになるのだろうか。私はそうは思わない。次回はそのことについて書こうと思う。

  
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