2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2015年11月14日

 7月、不正競争防止法が改正された。しかし営業秘密の流出を防止するための実効性という観点から見ると、日本はまだまだ不十分と言わざるを得ない。テロ対策に迫るレベルまで進化している、米国並みの対策を整えることが必要だ。日本が官民ともに如何に無防備であったかを示したのが、新日鉄住金と韓国ポスコの事件だった。

FBIは現役の人民解放軍軍人5人を指名手配し、ホームページに公開している(FBI)

懐柔された秘密保持者たち

 事件は3年以上にわたって継続し、9月30日に和解に到達した。和解内容について、公表されているのはポスコが300億円の和解金を支払うことだけであるが、将来のライセンス料や販売地域の制限についても合意していると見られる。知的財産権をめぐる訴訟としては最大規模の賠償額であり、ほぼ完勝に近い結末である。

 問題になっていたのは、方向性電磁鋼板というものの製造方法である。これは送電時の電力ロスを低減させる特殊な鋼材であり、かつては、旧新日本製鉄とそのライセンス先のみが、実用的規模で生産していた。そこにポスコが挑戦し、かなりのシェアを得ていたわけである。しかし、それが実は旧新日鉄の営業秘密を窃取することによって築いた、不法な立場だったことが明らかになったわけである。

 今回の訴訟で明るみに出たのは、虎の子ともいうべき営業秘密を盗み出す手口が、極めて洗練されたものだったということである。新日鉄住金は、社長すら立ち入れない区域を設けて、対象技術を厳重に管理していた。また、一連のプロセスを複数の別々の工程に分けて、一つだけでは製造できないようにしていた。だが、その区域に出入りする資格を持つキーパーソンをポスコは割り出し、巧妙に自社の手先として養成していた。また、一つの工程について技術を盗んだ段階で次の工程のキーパーソンを引き込ませるという手法で、最終製品にまで到達したといわれている。

 実は、今回の事件と酷似する事例が、米国にもある。被害に遭ったのは化学メーカーのEIデュポンであり、営業秘密を窃取したのは、韓国のコーロン社だった。対象は、世界でただ2社しか製造することのできなかった、アラミド繊維の製造方法だった。

 その事件でも、デュポン社の従業員を引き込み、会社の資料を持ち出させるなどして営業秘密を盗み出したあと、一つの工程が終わると次の段階を知る別の技術者を引き込むという手法は共通していた。今年の4月末に、コーロン社が3億5000万㌦を支払う和解が成立している。


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