2024年12月11日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月17日

 11月10日、キャメロン首相はEUのトゥスク大統領に書簡を送り、EU改革のための提案を伝達し、同日、同首相はチャタム・ハウスでこの提案を説明する演説を行いました。本件に関するフィナンシャル・タイムス紙の社説を紹介します。

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 すなわち、EU残留か否かを問う国民投票およびこれに先立つEUとの関係の再交渉は、保守党内の欧州懐疑派を慰撫しようとするものであるが、キャメロン首相にとっては巧妙なバランスをとることを求められる。EUに対する過大な要求は拒否されるリスクがある一方、過小な要求では強硬な懐疑派の血を騒がせることになる。

 キャメロンはトゥスク宛て書簡でやっと交渉事項を明らかにしたが、それは2年前に彼が約束した包括的な「新たな合意」よりも遙かにつつましいものである。EU離脱派はEUとの関係の基本原則は何ら変更しない「くだらないリスト」だとして批判している。しかし、EUのパートナーには前向きに受け止めて欲しい。キャメロンの4点からなる提案は理にかなった目標を構成している。それはEUの機能改善にとって必要な確かな真実を明らかにするという英国の伝統的な役割を確認するものでもある。

 キャメロンの目的のほとんどは達成可能である。「EUのDNAに競争力を刷り込む」ことはメルケルにとっても欧州委員会にとっても優先事項である。英国の「絶えず緊密化する連合」からの免除とEUの立法過程における加盟国議会の役割拡大が合意の障害になることはないであろう。ユーロ圏の行動から非ユーロ諸国を保護するためのセーフガードはシティーにとって肝要であるが、これには独、仏、伊の一定の支持がある。問題は他のEU諸国からの移民労働者に対する福祉給付の制限である。ポーランドなど東欧諸国が反対する。しかし、キャメロンは移民労働者の流入の問題に対処するため異なる方策を検討する用意があるとして柔軟性を示している。もし英国の離脱を阻止したいならば、他の加盟国首脳も同様に抑制を働かせるべきである。

 未だ交渉中であるので、キャメロンはEU残留を支持することを宣言し得る状況にない。しかし、11月10日の演説でキャメロンはEUを離脱してEUとはノルウェーのタイプの関係を持つというオプション(そこでは単一市場のルールについて英国は発言権を持たない)はあり得ないと片付けた。また、EUのメンバーシップは安全保障上の利益であるとも述べた。これらの発言は来るべき国民投票に向けてのキャンペーンの前触れである。つまりキャメロンは交渉で勝ち取るもの自体をもってしては国民一般のムードを変え得ないであろうことを示唆している。それは移民問題に焦点を当てた離脱キャンペーンのような魅惑的な簡明さを欠いているからである。従って、キャメロンは技と運も必要とする。そして英国がEUにとどまるべき理由だけでなく、離脱した場合に如何なる結果が待ち受けているかを仔細に論じる必要がある、と指摘しています。

出典:‘Cameron’s demands for EU reform are achievable’(Financial Times, November 10, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/711b9392-879d-11e5-90de-f44762bf9896.html#axzz3rp8Kgnic

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