2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月17日

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交渉決裂は許されぬ

 キャメロンの書簡は次の4分野について交渉事項を提案しています。(1)経済のガバナンスにおけるユーロ圏と非ユーロ圏の関係、(2)EUの競争力強化とEU規制の削減、(3)主権につき、「絶えず緊密化する連合」からの英国の免除、EUの立法過程における加盟国議会の役割の拡大など、(4)EU内の人の移動に対するコントロールの強化。

 キャメロンに交渉決裂の選択肢はありません。従って、EUから獲得し得ると見込めて、なおかつ有権者に提示するに耐え得る水準はどの辺りかをこれまでの事務折衝で探った上での提案と思われます。

 しかし、移民流入抑制のための福祉給付の制限はEU市民の間に差別を設けるもので非合法との意見が強く、EU立法過程における加盟国議会の役割拡大にしても既に複雑な立法過程を更に複雑化するでしょう。交渉相手は加盟国政府だけではありません。措置の如何によって条約改正、新規立法が必要となれば欧州議会の承認も必要となります。前途は多難だと思います。

 この社説はキャメロンの交渉努力を後押しする趣旨です。確かにキャメロンの提案は、英国におけるEU問題に決着をつけると大上段に振りかぶっていた当初の姿勢と比較すると後退している印象があります。例えば、EUから権限を加盟国に取り戻すという意気込みは著しく薄められています。保守党内の欧州懐疑派や、英国独立党のファラージ党首はキャメロンの提案を酷評しています。

 なお、キャメロンは11月10日の演説で二つの指摘をしています。一つは、EUを離脱した場合にも、ノルウェーやスイスのタイプのEUとの関係は、英国にとってオプションたり得ないとして排除したこと、もう一つは、国民投票は一回のみで二回はないとしたことです。これはロンドン市長ボリス・ジョンソン(保守党)辺りが模索している虫のいい「二回の国民投票」というアイディア(一回目の投票でキャメロンの交渉成果を否決し、これを梃子に再交渉して改善された成果を得ようというもの)を排除する趣旨です。一回の国民投票でYESであれば残留、NOであれば離脱という、キャメロンはいわば退路を断った形で国民投票での決断を国民に迫ることになります。

  
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