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2015年12月16日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

(翻訳)

ドミトリー・リトフキン「もしトルコが海峡を封鎖したら:ロシア軍の“プランB”」『ズヴェズダーTV』2015年12月11日

 もしアンカラが黒海と地中海の間の海峡を封鎖したら、中東のロシア軍へはどのように補給を行えばいいだろうか。

 その法的な根拠は今のところない。同海峡の航行は1936年に調印された前世紀のモントルー条約ですでに規制されていた。この文書によると、商業航行については平時であろうと戦時であろうと全ての国が自由通航権を有している。しかし、軍艦の航行に関しては、黒海の沿岸国か非沿岸国かで枠組みが異なる。黒海沿岸国は、平時であればトルコ政府に事前通告の上、あらゆる種類の軍艦に海峡を通航させることが可能だ。トルコが戦時状態にある場合または戦争の脅威に晒されていると認識している場合には、同国は海峡をどんな軍艦が通航でき、何なら通航できないのかを決定する権利が与えられている。

 トルコが参戦していない戦争が発生している場合には、海峡は全交戦国の軍艦に対して閉ざされなければならない。幾人かのロシア人専門家が懸念するように、アンカラが黒海から地中海へのロシア艦の通航をいつでも禁止できるのはまさにこの規定による。これについてドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は、「黒海の海峡通航に関する手順は国際法であるモントルー条約によって規定されており、我々としては当然、黒海海峡には自由通行規範があると見ている」と既に述べていた。

 と同時に、同報道官は、「トルコ指導部の行動を予測するのは極めて難しい」とも認めた。言うなれば、何が起こってもおかしくはないのだ。

 こうした場合、モスクワはいかに行動すべきであろうか? 今のところひとつだけ明らかなのは、アンカラとの戦争はいかなる場合もあり得ないということだ。クレムリンはこの点を、今回の紛争の最初から明らかにしていた。だが、トルコが海峡を封鎖したら、シリアにいる我が部隊集団への補給はどうしたらよいだろうか?

いざとなればイラン経由も

 トルコはどんな場合でもボスポラスとダーダネルスを封鎖することはないーー。こう話すのは、元黒海艦隊司令官のイーゴリ・カサトノフ提督である。同提督はまた、彼らが我々と敵対した場合の備えができているかどうかについても仮想的なシナリオを描いてくれた。

 情勢が悪化した場合、シリアに展開する我が部隊集団には、たとえばイランを経由して補給を行うことが可能である。戦時中でさえ、米国の援助物資がレンドリースの枠内でソ連に運ばれていたのだ。同提督によると、カスピ海やイラン領を経由したり、アラビア海と紅海を通ってペルシャ湾に至る補給ルートは、黒海を通過するものより遥かに長くなる。

 だが、必要となれば、これを実行することは可能だ。運賃の上昇により、軍事物資の送達コストが上昇することは許容できる。また、わかっている限りでは、黒海艦隊の少なくとも3隻の揚陸艦が「シリア・トランジット」に常に従事している。1171型の「ニコライ・フィリチェンコフ」と775型の「ツェーザリ・クニコフ」及び「アゾフ」である。このうち「ニコライ・フィリュチェンコフ」は艦内に1500トンの装備及び物資並びに300〜400名の上陸部隊、またはそれらの代わりに装甲兵員輸送車45両ないし、輸送車両50両を搭載することができる。775型は艦内及び甲板上に装甲兵員輸送車13両又はトラック20両など貨物500トンを搭載できる。

 これ以外には、550M型大型貨物輸送船(BMST)「ヤウザ」が活動している。もともとは開発中止となった909型弾道ミサイル輸送艦「スコルピオン」を転用したものだ。技術仕様によると、この貨物船には戦略原潜に搭載されるR-29弾道ミサイル発射装置を8基搭載可能で、それぞれの重量は40トンにもなる。ここから「ヤウザ」の積載重量を割り出すことができよう。また、輸送作戦のためにトルコから買い入れた船が数隻ある。紛争がさらにエスカレートした場合には、これらの輸送船はイランのペルシャ湾岸にあるいずれかの港を陸揚げ港とすることになろう。

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