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メディアから読むロシア

2015年12月16日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

海峡封鎖は戦争の引き金にはならない

 もうひとつ、記事中ではAn-124超大型輸送機が「空の架け橋」として紹介されているが、ロシアがこれほどの長距離空輸能力を発揮できるようになったのはごく最近の話である。ロシアがソ連から受け継いだこれらの超大型輸送機は、整備予算の不足から次々と稼働不能に陥っていたためだ。

 たとえばAn-124の運用を委託されているロシア国防省系の国営企業「第224飛行隊(224LO)」によると、2004年の時点で稼働可能なAn-124は1機のみであったが、現在では10機を運用しており、今後はロシア空軍の保有機すべてを稼働体制とする計画であるという。

 これに先立つ2014年、ロシア軍はAn-124を用いてロシア南部に3000人の兵力やヘリコプターを3日間で送り込むという緊急展開訓練を実施しており、今回のシリア介入ではその実力が改めて実証された形と言える。

 また、ロシアは今年7月、グルジア国境に近い北オセチアのモズドク基地を大型機の離着陸が可能なように突貫工事で改造し、An-124をはじめとするシリア作戦の前進基地としていたことが知られている。さすがのAn-124も、上限一杯に貨物を積み込むと航続距離が3000kmほどに制限されてしまうため、貨物の積み込みはなるべくシリアに近い南部の前進基地で行うという方式だ。

 モズドク基地はシリアに派遣された戦闘機の集結地点や、11月からシリア空爆に参加した大型爆撃機の前進基地としても利用されており、さながらシリア作戦を支える後方拠点と言えよう。

 An-124に関して言えば、ほぼ毎日1便がシリアのアル・フメイミム航空基地とモズドク基地との間を往復しているようだ。現在の稼働機数を考えると、仮にボスポラス/ダーダネルス海峡が封鎖された場合はこれを一日数往復程度まで増便することは可能であろう。

 まとめると、トルコによる海峡封鎖がロシアのシリア作戦を不可能とするものではなく、したがって戦争の引き金となるものではないという点で筆者の見解はリトフキンと一致している。ロシアもトルコも当面は海峡問題をプレイアップするにせよ、政治的なパフォーマンスとしての域は出ないのではないか。

 むしろ、海峡通過をはじめとする各種問題をレバレッジとして、ロシア及びトルコ双方がどのような着地点を見つけるかが焦点となろう。

〔修正履歴〕1ページ目に「シリア空軍機の活動を封じにかかっている」という記述がございましたが、正しくは「トルコ空軍機の活動を封じにかかっている」でしたので、訂正してお詫び申し上げます。(12月18日、編集部)

  
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