パリの同時多発テロから13日で1カ月。多数が犠牲になったバタクラン劇場や近くのカフェでは、献花に訪れる人が今も絶えず、恐怖の記憶は消えていない。シャンゼリゼ大通りの人出もクリスマス前にしては「例年の半分以下」(地元の衣料品店)で、パリは新たなテロに脅えすくんでいるかのようだ。
ディズニー店に金属探知機
凱旋門から伸びるシャンゼリゼ大通りは夜になると、街路樹に青い色のイルミネーションが灯り、華やかさはいつもの年と同じだ。しかし通りに面したブランドショップや貴金属店などは店先にガードマンを配置し、手荷物やバックの中を調べるなど入念にチェックしている。
ディズニー関連の店では入店の際、金属探知機を体に当て銃や爆弾などを携行していないかを調べるものものしさだ。シャルルドゴール空港などとは違い、通りには武装した警官や治安部隊の姿は見られない。ただ、人出は少ない。この時期を知るブランドショップの店員によると、通りを歩く人は例年の半分以下で、商売にも影響が出ているという。
影響はこうしたブランド店だけではなく、レストランや劇場などにも波及している。いつもなら予約の取れないセーヌ川沿いの海鮮レストランもガラ空き状態で、エッフェル塔を眺めながら食事を楽しむことができる窓際の席が簡単に取れる。
90人が犠牲になったバタクラン劇場は閉鎖されたままで、劇場の前などには献花された花束が山のようになっている。銃撃を受けた劇場から近いところにあるカフェ「ボンビエール」はすでにオープンし、パリっ子の心意気を示すものとして歓迎されているが、ウエイトレスの1人は再び狙われる懸念を漏らしていた。
このウエイトレスの懸念はそのままフランス政府の懸念でもある。フランスの専門家らによると、同国のイスラム教徒は約700万人にも達する。うち過激派として監視対象者は2万人程度いるが、フランス国内の治安担当者は3000人程度しかおらず、とても常時監視できるような状況ではない。圧倒的に人員が不足しているのだ。
その上、欧州連合(EU)の治安システムは「欠陥だらけ」(専門家)とされる。EUには、犯罪者のデーターベースはあるが、イスラム過激派の共有されるブラックリストのようなものはない。情報の共有システムがなく、各国間の横の連携がない。加えてEU創設の理念である国境管理の撤廃がテロ対策では深刻なジレンマになっている。
パリの同時多発テロの主犯格だったアバウド容疑者(死亡)はシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)の宣伝動画の主役を演じ、欧米の情報機関から危険なテロリストとして重要手配されていたにもかかわらず、密かにEUに舞い戻っていた。
またバタクランの襲撃犯の1人も2012年にイエメンに渡航したことから監視リストに入っていたが、それにもかかわらず、シリアに行き、そしていつの間にかフランスに戻っていた。専門家の1人は生体認証のデータベースの構築が急務だと指摘しているが、治安システムの確立には時間がかかりそうだ。