ラスムセン前NATO事務総長が、11月3日付でProject Syndicateに「クレムリンの悲劇的誤算」との論説を寄稿、ロシアの西側敵視は、NATOとEUの拡大をロシア包囲と見る誤った解釈に基づくものであり、西側が宥和ではなく決然とした態度を示すことこそ、対立の終結を早めることに繋がる、と述べています。
西側諸国との関係性見誤るロシア
すなわち、ロシアの指導者は、西側の意図を根本的に誤って判断し、多大な人的犠牲を出しているウクライナ侵略など、双方の利益を損ねる全く不必要な対立を作り出している。
理由は単純である。ロシアは、EUとNATOの拡大をロシア包囲と看做し、旧ソ連諸国を歓迎することでEUとNATOはロシアを弱めようとしている、と考えている。この解釈が、ウクライナのEUとの連合協定署名に対し、ロシアをクリミア併合と東部ウクライナにおける「凍結された紛争」に駆り立てた。
しかし、ロシアの解釈は間違っている。中欧、東欧の新興民主国家は、EUとNATOへの加盟を欲した。EUとNATOの拡大の原動力は、ロシアへの復讐などではなく、こうした国々の意欲である。
ロシアは、隣国がEU、NATOに加盟する決定を嘆くべきではない。EUとNATOは、法の支配、国境紛争の平和的解決などを基礎とする民主的制度を強力に支持してきた。安全で繁栄した中欧、東欧は、ロシアの利益になる。今日、EUはロシアの最大の輸出先、ロシアとEUの国境は、ロシアの国境の中で最も安定し、安全である。NATOの同盟国がロシアを攻撃することなどない。NATO加盟国は、国境紛争の平和的解決を約束している。EUとNATOのおかげで、ロシアの西側の国境の安定が達成されている。
私が2009年にNATO事務総長になった時、ロシアとの関係強化を最優先課題とした。3回目のNATO=ロシア理事会首脳会議では、当時のメドベージェフ大統領と他の28カ国の首脳は、真の戦略的パートナーシップ構築を約束する共同声明を発した。
しかし、5年経って、ロシアは我々の戦略的パートナーからは程遠く、戦略的問題となっている。現在のロシアの軍事ドクトリンは、NATOをロシアへの脅威としている。今や、ロシアの西側との関係を再定義すべき時期である。第一歩は、EU、米国、その他のNATO加盟国が、協力は得であり対立は損であることを明確に示すことである。これは、対ロ経済制裁の継続を意味する。NATOは、ウクライナの防衛能力を支援しつつ、領域防衛を強化すべきである。EUと米国は、対ロ政策において確固として団結すべきである。
このアプローチが、現在の対立を終わらせ、ロシアを西側との建設的関与に向かわせる最良のチャンスをもたらす。協力がうまく行くには、ロシアは国際規範を遵守し、失った信頼を取り戻さねばならない。