今日のロシアについては、宥和は平和をもたらさない。紛争を長引かせるだけである。西側が引き下がらないことを、ロシアの指導者に知らしめるのが早ければ早いほど、紛争の終結は早くなる。その時に初めて、ロシアは、EU、NATO、米国との建設的協力の道、より繁栄する将来に戻ることとなろう、と述べています。
出典:Anders Fogh Rasmussen,‘The Kremlin’s Tragic Miscalculation’(Project Syndicate, November 3, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/russia-benefited-from-nato-enlargement-by-anders-fogh-rasmussen-2015-11
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プーチンが存在する限りロシアは変わらない
この論説は対ロ関係について、EU、NATO諸国の多くの人が考えていることを代弁しており、大筋で賛成できます。
しかし、ロシア、具体的にはプーチンが制裁を受けて、西側との関係の再構築に向かうとラスムセンが考えているのであれば、楽観的過ぎる見通しです。
プーチンがEU、NATOの拡大をロシア包囲網ととらえ、その考えに固執しているのを、制裁で変えさせることは至難でしょう。プーチンの任期は2018年まで、再選されれば2024年までロシアの指導者にとどまります。プーチンがいる限り、西側とロシアの関係は困難なものでしかありえないように思われます。
対ロ制裁は、力で国境を変えない、侵略はしないとの国際規範を、ロシアがウクライナであからさまに侵犯したことに対するものです。国際社会全体の問題であり、NATO、EUだけの問題ではありません。しかし、プーチンがクリミアをウクライナに返すとか東部ウクライナから撤退することは考え難いです。これは国内政治的に彼の命取りになります。
プーチンが政権の座を去るまでは、今の制裁路線、対ロ強硬姿勢を堅持するしか手がないでしょう。ロシアの無法を認めるわけにはいかないからです。日本が抜け駆けをして、対ロ制裁の効果を弱めるようなことはしてはなりません。
プーチン政権は国内での支持率が高く長続きする、との意見が多いですが、制裁と資源価格低迷が効いて支持率は今後徐々に低下していくとも考えられます。プーチンは、2018年の選挙に向け、対外政策での活動的な政策展開、反対者の弾圧などを、政権維持に役立つとの観点でやっている兆候があります。
ロシアには昔から西洋化主義者とスラブ主義者の対立があります。指導者はそれらの両派から交代で出てきています。プーチンは後者ですが、ゴルバチョフ、エリツィンは前者でした。ロシアの未来は西側との協力にあるとの意見は、今のロシアでもかなり強いものがあります。
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