2024年4月18日(木)

WEDGE REPORT

2015年12月18日

○キーワード3
【人脈】

 タイクーンがビジネスの礎を築いたのは、第二次世界大戦中から戦後20年にかけてが多い。そのような時期は政情も不安定であったが、タイクーン達は時の政権の中枢と積極的に関わりを持った。

ジャカルタの摩天楼

 例えば、インドネシア最大のコングロマリットであるサリムグループをつくり上げたスドノ・サリムの成功の原点は、後に30年の政権を担ったスハルト大統領の知遇を得たことである。またマレーシアの賭博王リム・ゴートンのカジノライセンスの独占的運営権は、カジノで生まれた潤沢なキャッシュを、マレーシア政府が国を成長させたい分野に再投資することで担保されてきた。今日においてはコンプライアンスの要請で適わない策もあるだろうが、国の中枢との深く広い人脈が、そのまま彼らのビジネスの広がりを支えてきたのであった。

○キーワード 4
【ファミリービジネス】

 タイクーンは、裾野の広いコングロマリットを支配している。その構成企業の中には上場を果たしているものも少なくないが(上場の際にタイクーンは巨額の利を得ている)、タイクーンはそのような上場企業の支配権を手放すことは決してしない。ファミリーオフィスと呼ばれる資産運用会社が、過半数の議決権を握っているのだ。

 ファミリーオフィスを支配しているのは、もちろんタイクーン自身である。どんなに事業の規模が大きくなっても、また上場を果たしても、タイクーンとその家族によるファミリービジネスとして事業は運営されていく。タイクーンが高齢になり引退する際には、議決権は子ども達に承継されていく。外部の人間がつけ入る隙は基本的にはない。

 ごく稀にお家騒動が発生することがある。タイクーンには複数の妻による多くの子どもがいるケースがあり、その子どもの代で、引き継ぐビジネスを巡って争いが起きることがあるのだ。またタイクーンの弟とタイクーンの子どもが争った例もある。昨今、日本においてもお家騒動が話題になった企業があったが、家族であるだけに愛憎も激しいものだ。だが争いが長引けば、事業に悪影響を及ぼすのは必定。ファミリービジネスにおいて、事業承継は鬼門なのである。

○キーワード 5
【アントレプレナーで日本贔屓】

 タイクーンがタイクーンとなるためのきっかけが、積極的な再投資であることは先に述べた通りである。機を見て敏の投資判断が出来る彼らは、事業拡大に積極的で、天性の起業家・アントレプレナーであると言ってよい。ファミリービジネスにおける事業承継がタイクーンの悩みの種ではあるが、ファミリービジネスを拡大し、ファミリー間の関係を円満に保つためにも、常に新しい事業領域を開拓していかねばならない。

 ところで、ここで取り上げているタイクーンの多くは、日本に対してとても好意的である。特に日本の製品の品質やオペレーションの効率性は彼らの尊敬のベースになっているし、日本の優れた製品、アイディア、オペレーションノウハウを自分のビジネスの中に導入したい、その結果、新しい方向性を見いだしたいと考えているタイクーンは多い。

 実際、彼らは日系企業のパートナーシップに対する姿勢をとても高く評価する。それは、パートナーシップが、長期的視点に基づいて築かれることだ。欧米企業は株主に対する還元を重視するあまり、短期で成果を出すことに傾倒しがち。結果、パートナーシップの運営も短期的になる。ところが日本企業は、昨今、株主の声が大きくなってきたとはいえ、ゴーイング・コンサーンの前提のもと、超長期的視野に基づいて企業運営がなされる。先に述べたように、タイクーンのファミリービジネスにおいて、事業とは何世代にも渡って継承していくものであり、視座はやはり超長期なのである。ここに日本企業の経営方針と、大きなフィットが存在するのだ。

 以上がタイクーンの類型である。彼らは日本のサラリーマン経営者と違い、意思決定のスピードが早く、ビジネスでも即断即決である。どのように彼らとWin-Winの関係を築くべきか、彼らにどうアプローチすべきかは、本書を読んで頂ければ幸いである。

  
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