WEDGE REPORT

2015年12月25日

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 主張はさらに「今後の世界の潮流の中でEVは大きな存在となり、EV用の電池需要が伸びる。VWは州内に大規模な電池工場も建設すべき」と踏み込んでいる。

なぜ未来のライバルに「塩を送る」のか?

 ここで疑問なのが、自らがEV、バッテリーギガファクトリーを持つマスク氏が、なぜ未来のライバルに「塩を送る」ような行動を起こすのか、という点だ。

 実はテスラ社は2014年6月に同社の持つEV関連のすべてのパテントを公開している。マスク氏は公開にあたり「当初は大きな自動車メーカーが我々の技術を盗み、EVの大量生産を行うと危惧していた。しかし現実は全く逆で、巨大メーカーによるEV生産は全体の1%にとどまっている。地球環境の視点から見て多くのゼロ・エミッション車両が生み出されることが望ましく、パテント公開に至った」との声明を出した。

 マスク氏は将来すべての車がEVとなる社会の実現が理想だという。そのためには大手メーカーがどんどんこの分野に参入し、EVそのものの市場を拡大する必要性がある、と考える。その先手を取ってバッテリー工場、ソーラーエネルギーを蓄電して車の充電や家庭電力供給に当てるシステムをソーラーシティ社を通して作ったり、とインフラ整備にも熱心だ。

 マスク氏の提唱する社会は、一部現実となりつつある。フォード社は4億5000万ドルを投資し、今後少なくとも50のモデルにEVを導入する、と発表した。VWもすでに次の環境対策としてEV開発に取り組んでいる。これをマスク氏は「真のEV競争化時代の訪れ」と歓迎する、という。

 しかし業界内にはこのマスク氏の動きに対し、牽制する声もある。元ゼネラル・モータース(GM)副会長で「カー・ガイ」として知られるボブ・ラッツ氏は、「大手がこぞってEV生産を始めれば、テスラは生き残れない」という意見を披露した。その中でラッツ氏は特にテスラのディーラーを通さない自社販売方式を鋭く批判している。ラッツ氏もかつては業界の風雲児と言われたものだが、あまりにも型破りなマスク氏には苦い思いを抱いているのかもしれない。

 ラッツ予言が正しいかどうかはわからないが、今回のマスク氏の行動、かなり実現性の低い意見書であることは確かだ。米政府がVWに対し罰金を軽減することはあり得ないし、カリフォルニア州が独自のリコール恩赦を実行することはほぼ不可能だろう。しかし世間に対しテスラの「公正さ」を示した、という点で、かなり得点の高いものだった。やはりマスク氏は只者ではない。

  
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