2024年11月22日(金)

地域再生のキーワード

2015年12月26日

 ところが「観光」で生きていくためには、大きな問題があった。年間50万人が村を訪れるとはいえ、観光の目玉であるススキは見頃が秋。夏休みのハイキング客なども少なくないが、圧倒的にススキの時季に偏っている。どうやって秋から夏、そして春へと客を拡げていくかが大きな課題だった。

曽爾高原ビール

 まず村が取り組んだのが観光拠点の建設。国・県と共に観光公社を設立、曽爾高原の入り口で1999年に商業施設「ファームガーデン」を建設して、レストランと地ビール「曽爾高原ビール」の製造工場、地元産品の直売所などをオープンさせた。その後も、2004年には天然温泉「お亀の湯」をオープン。今では関西圏有数の泉質の高さを売り物に人気を集めている。入浴料が割安になる回数券を発売、奈良市内や大阪市内からの常連も増えた。そうなれば、季節は関係なしである。また、05年には米粉パンを製造販売する「お米の館」も完成。手作りパンにはファンがいて、村外から通ってくる。

 地方自治体の公社と言えば経営赤字を税金で補てんしているケースが少なくないが、曽爾高原の場合は黒字で、逆に村の財政を助けている。現在では村の職員はおらず、独立経営を貫いており、さらに60人余りの雇用を生んでいる。村内最大の事業所に育った。

 ここまでは、役所主導の観光開発のよくあるパターンである。

 最近、曽爾村を一躍有名にしたのが「めだか街道」。山粕地区の旧伊勢本街道沿いの住民10軒が、珍しいめだかを飼育し始めたのだ。もともとは代表の枡田秀美さんが趣味で飼っていたが、テレビ番組で紹介されたのをきっかけに、全国の趣味でめだかを飼育する人たちから注文が殺到。これは商売になると考えた枡田さんが近隣の住民に飼育を呼びかけた。

 錦鯉のような色の珍しいめだかは一匹2万5000円。ペアで5万円の値が付いている。「10軒がそれぞれ違う種類を飼うというルールを作った。無駄な価格競争はしません」と枡田さん。ちょっとしたお小遣い稼ぎにもなるだけに、周囲のお年寄りが相次いで〝新規参入〟したが、集落を挙げての共存共栄を目指している。

めだか街道を興した枡田秀実さん夫婦

 村の観光係として、めだか街道を大々的にPRしている木治千和さんは、商売というよりも、副次効果が大きいと見る。「今まで家に引きこもっていたお年寄りが、玄関先に並べた水槽を前にお客さんと一生懸命話すことで、生き生きしている」というのだ。


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