2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2016年1月1日

 それならば時給引き上げそのものがナンセンスなのだが、この動きの背景にあるのは米国の労働のあり方の変化だ。ロサンゼルス郡の失業率はピークの2010年7月には13.2%だったが、15年10月には5.9%にまで下がった。米経済の回復基調に沿ったもの、と言われる。

失業率を減らす数字のマジック

 しかしここには数字マジックがある。失業者の定義に「15週以上無職期間があった」「時折パートタイム労働を行う」などの条件を加えると、2014年度のロサンゼルス郡失業率は15%に跳ね上がる。つまり完全失業は免れているが、正規雇用ではなく短期間のパートを繰り返す労働者も「就業者」に含まれているのだ。それだけ給与の高い正規雇用が減り、最低時給で働くパート労働者が増えているのが実情だ。

 当然のことながら、政府や雇用者に対し「正規雇用の増加によりリビング・ウェージを保障すべき」という圧力がかかる。しかし米経済はまだ大幅な正規雇用を増やせるほどには回復してない。そこで最低時給の引き上げで雇用状況の現状から目をそらせている、という批判も噴出している。

 もっとも打撃を被るのは中小、零細企業雇用者だ。個人経営の車の修理工場、レストラン、コンビニなどの店舗オーナーからは「時給15ドルになると経営が成り立たない」という声が上がっている。

 時給引き上げにより、物価が上がる懸念もある。しかしFRBが利上げを行ったばかりの米国ではむしろインフレ歓迎ムード。時給が上がったところで最低賃金労働者の暮らし向きは改善しない、という悪循環が透けて見える時給引き上げ運動。果たして最低時給15ドル時代の到来は米国人の生活の質をどのように変化させるのだろうか。

  
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