米で12月17日にFBIにより証券取引詐欺の疑いで逮捕された、マーティン・シャリ容疑者が話題の的だ。32歳という若さでヘッジファンド運営から3つの製薬会社を買収、CEOに収まるなど、3年前にはフォーブス誌による「30歳以下の金融業界の成功者30人」に挙げられた有名人だったからだ。
“金融界の若きエース”の素性とは
逮捕容疑はシャリ容疑者が2009年に創設したMSMBというヘッジファンド会社をめぐるもの。それによると同容疑者は「投資家をミスリードし、自らの損失穴埋めのためにファンドを売りつけた」という。
しかしこの逮捕劇をめぐっては、業界筋からも疑問が寄せられている。ヘッジファンドは言葉巧みに売り込むのが商売であり、その中で「詐欺を働いた」のと「事実を大げさに吹聴した」の差は線引きが困難だ。ヘッジファンド詐欺は実は口実で、本当の逮捕理由は別のところにある、というのが本人の主張だ。
マーティン・シャリとは何者なのか。1983年、ニューヨークで貧しいアルバニア・クロアチア移民の息子として生まれる。高校に進学したが出席日数不足のため放校となった。しかし大学進学に必要な単位はすべて取っており、17歳にしてウォールストリートのヘッジファンド会社、クレーマー社にインターンとして入社。そこで主に製薬会社の株価暴落を予想するなど、才能を発揮した。
大学に進学し、ヘッジファンドで働きながら卒業、2006年に自らの会社を設立。その後2009年に設立したMSMBは製薬業界への投資を中心に業績を上げた。そこから製薬会社を買収し、自らがCEOになる、という行為を繰り返し行ってきた。
シャリが興味を持ったのは「マイナーな疾病の特効薬を製造する会社」だ。2011年にレトロフィンというバイオテクノロジー会社を立ち上げ、同年MSMBはAMAG薬品を3億7800万ドルで買収、14年には同じく製薬会社のティオラ社を手に入れた。15年にはチューリング製薬を創設、さらにケロバイオ製薬の株式の大半を入手する、という拡張路線だった。
しかしながらCEOとしての手腕については「頭の良い人間だが会社を率いるには未熟」と評された。製薬会社の長でありながら他のバイオテク会社株のショート売りを繰り返して利ざやを手に入れたり、従業員教育もおざなりだったという。レトロフィンは14年にシャリを解任、その後背任行為で6500万ドルの賠償請求訴訟を起こした。ケロバイオもシャリの逮捕後CEO解任を発表している。
実に毀誉褒貶の激しい人物で、卓越したアイデアで20代で巨額の富を手にしたが、その入手方法には司法の付け入る隙があった。まるで米国版ホリエモンだ。