2024年7月12日(金)

個人美術館ものがたり

2009年11月19日

現在は舟越桂氏の「長い休止符」も常設展示されている

 絵画の展示室に入る。最初の2、3点目でいきなり長谷川利行の絵が飛び込んできて、びっくりした。初めて見るものだけど、明らかに長谷川利行だ。でも絵の図柄が何を描いているのか、さっぱりわからない。パレット代りの空白のキャンバスに、ただ絵具のついた筆をなすりつけた感じだけど、その絵具の質と筆の暴れ具合が紛れもなく長谷川利行なので、驚いた。こんな作品があったのか。具象的な形は何もなく、ほとんど抽象絵画だ。絵画というより、反故にされたキャンバス、といった方が当っている。これをよくコレクションしたものだと感心する。念のため壁の表示を見ると、タイトルは「大島の海」とある。海だって? もう一度絵を見たら、なるほど、海が見えた。横流れの乱暴な線は一瞬に海となり、中央には島影も浮かぶ。意外にも、これは風景画だった。それにしても何というアバンギャルド、反故にされたようなキャンバスが、その反故の直前で風景画になるところが、じつにスリリングである。

 この1点で、コレクションの確かさを感じた。展示作品を見ていくと、小品ながらマネがあり、モネがあり、セザンヌ、ルオー、ピカソ、アンソールなど、美術史を万遍なく集めている様子があるが、いずれも存在感の確かな作品が多い。モネの絵はどれも好きだが、ここにある「チャリング・クロス橋」は、逆光の川面に点々と光る無数の小さい光の、その繊細さに痺れる。

 アンリ・ルソーは1点だけ「工場のある風景」。これも逸品だ。ピカソは牛の頭などを描いたかなり大きな作品があるが、それよりも若いころのデッサンがよかった。彫刻家ブランクーシのテンペラ画は珍しい。彫刻作品もそうだが、テンペラ画もやはりモジリアニとニュアンスが似ている。ミロの絵も、縦長のはじめて見るものだったが、どきりとした。

アンリ・ルソー「工場のある風景」1896~1906年頃

 それから今回展示はされてなかったが、スーラのデッサンがいい。「サーカスの客寄せ」という大作のためのデッサンで、その完成作と同じ構成を、細かい点描で描いている。あの大作のための部分的なデッサンは各種あるらしいが、全体像のエスキース(縮小版の作品)はほかにないらしい。資料によるとハガキを少し大きくしたくらいの小品のようだが、その小ささの迫力が想像できる。

 日本の洋画では安井曽太郎と梅原龍三郎にかなり力を入れて揃えてある。岸田劉生、佐伯祐三、国吉康雄も嬉しいが、熊谷守一の作品を25点も所蔵していると知ったときには、自分はコレクターでもないのに、何だか少し悔しい気持が湧いた。この日は、白と黒の斑〔ぶち〕の猫が飾られていた。


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