熱さまシートは中国人に売れすぎて日本の消費者が買えず、子どもの急な発熱の時に困ったという話も出るほどだ。さらに、家電量販店でありながら南部鉄器を買い求める中国人が来るなどの話にはびっくりだが、日本の売る側もそうしたニーズにしっかり対応しているところをみると、もはや現実が常識の先を行っているというのが実感である。
キックバックを要求する案内人
飲食店に多くの中国人客を連れてくる代わりにキックバックを要求する案内人がいるといった話も生々しく紹介されている。こうした事例を知るにつれ日本であって日本でないような、もはやなんでもありの世界といった印象すらうける。
日本にとってこうした訪日中国人客はありがたいし、お金を落としてゆくのは日本経済にとって悪い話ではない。日本人観光客があまり注目しなかったような場所ながら、ふとしたきっかけから中国人が大挙押し寄せて、脚光を浴びるようなケースもあり、地方にもチャンスが広がっている。
だがその副作用もある。中国人の宿泊で東京都心の宿泊代が1泊3万円ほどに値上がりし、出張で上京する普通のビジネスマンが宿泊できなくなっている事態などは頻繁に耳にするようになった。こうした業界にとってはビジネスチャンスなのだろうが、何となく違和感を覚えるのは筆者(中村)だけではないだろう。
2015年の中国の国内総生産(GDP)成長率が6・9%増と25年ぶりの低水準にとどまり、中国経済の減速が鮮明になっている中で、これまでのような爆買いが続くのかどうかという疑問が出るのはごく自然な発想だが、本書で著者は続くと指摘している。
ただ、爆買いブームは、一種のバブル的な要素があり、遠からず潮目が変わる時期が訪れるのではないかという思いは筆者個人としてはぬぐえない。円安がどこかで終わって円高にむかってゆくと、訪日客の増加も鈍化するだろうし、国際政治や中国の国内政治の状況によっては、雰囲気が一気に冷え込む可能性も否定できない。さらに中国経済が一段の変調に向かった場合には、その影響はやはり避けられないだろう。
経済の歴史を振り返っても、バブルはいつかはじけるし、ブームはいつか下火になる。爆買いバブルがはじけた夢のあとに日本や中国はどうなるのか。次の作品はこうしたテーマを扱ってほしいと思いつつ、でも今年の春節はまた中国人がたくさんやってきて爆買いするのだろうな、と1月下旬の銀座周辺を歩いて思った。
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