これまでも過激化してきたフィリピンのイスラム教徒
フィリピン南部にISの衛星国ができる可能性が現実味を帯びてきています。
その背景にはフィリピンにおける少数グループとしてのイスラム教徒の存在があります。イスラム教徒はフィリピンの人口の6~9%を占めるに過ぎませんが、これまで過激化してきた経緯があります。その代表例が、フィリピン南部,ミンダナオ島を拠点とするイスラム分離独立派の反政府組織、モロ・イスラム解放戦線です。長年の政府との対立ののち、和解が成立したが、和解に不満な分子グループが、フィリピン南部のスールー諸島を拠点とするアブ・サヤフ・グループ(ASG)のもとに統一され、ASGのリーダーがISから認知されたと言います。ISは今後、ASGを核として、スールー諸島でのISの衛星国樹立を宣言する可能性があります。
この動きは、IS本体が受け身に立たされ、ISがシリア、イラク以外で成果を上げる必要に迫られているという状況の反映とも言えます。ISは本体の不利な状況から目をそらし、ISの魅力を示すために世界各地でテロ活動を強化しています。
しかし、ISがシリア、イラク以外に拠点を築くことは、各地でテロをするより深刻な脅威です。その拠点にイデオローグ、爆発物の専門家、戦術家、作戦要員、爆発物などを送り込み、より組織的にテロ活動を拡大する可能性が高まるからです。これまでのところISはリビアに拠点を作っていると見られます。フィリピンの拠点については、どの程度本格的なものとなるのか分かりませんが、もし拠点ができれば、東南アジアにとってのISの脅威は一段と深刻になります。
イスラム国はASEAN諸国共通の問題
論説によれば、フィリピン政府がISの動きを深刻に受け止めていないきらいがありますが、フィリピン政府、軍は本気で、IS対策を講じるべきです。
また、関係国との連携が重要となります。ASGの指導者がマレーシアを重視しており、マレーシア人がフィリピンでのIS支部に参加する可能性が高いということであれば、マレーシア政府との協力が不可欠となります。
ISについては最近テロ攻撃を受けたインドネシアも脅威を感じています。またタイもマレーシアとの国境のイスラム教徒の一部が以前より分離独立の運動をしており、ISが働きかける可能性があります。そうなるとISは一部の国の問題ではなく、ASEANの共通の関心事項となります。ASEANは共同してISの脅威に対処すべきであり、我が国もISの脅威についての認識をASEANと共有すべきでしょう。
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