安保激変

2016年3月2日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

 一方、中国の周辺諸国では南シナ海の軍事化に対する足並みがそろっていない。パラセル諸島へのミサイルの配備は、米国がアジア重視政策の一環として、初めて東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を主催するタイミングを見計らうように行われた。

中国の一方的な現状変更に対するコストを高める

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 オバマ大統領は、会議で南シナ海における中国の活動を牽制することを提起したとみられる。しかし、同会議の共同声明文では「航行の自由」や「非軍事化と自制を促す」という表現は明記されたが、肝心の「南シナ海」への言及はなかった。非公式にカンボジアやラオスなど中国と緊密な関係にある国々の抵抗があったからだろう。その後ラオスで開かれたASEAN外相会議では、議長声明で南シナ海情勢への懸念が表明されたが、「中国」への言及はやはりなかった。

 現状では、中国が南シナ海の軍事拠点化をあきらめる見込みは少ない。国際社会は、外交、軍事など様々な手段を講じて、中国の一方的な現状変更に対するコストを高めなければならない。

 そのためには、フィリピンが進めてきた南シナ海問題の仲裁裁判の結果をどのように有効活用するか検討すべきだ。フィリピンは、2013年に始めた仲裁手続きで、九段線に基づく中国の南シナ海での主張と国連海洋法条約の整合性の有無と、中国が占拠する岩礁の法的な地位の明確化などを求めてきた。中国は、裁判所に管轄権はないと仲裁手続きへの参加を拒否しているが、岩礁の法的な地位について仲裁裁判所が今年の6月にも最終判断を下す見込みだ。

 中国が占拠し、人工島を建設している岩礁が、満潮時に水没する低潮高地だと裁判所が判断すれば、中国の南シナ海での行動は法的根拠を失う。低潮高地は国際法上領有が認められないからだ。領有もできない岩礁の上に人工島を造成し、それを軍事拠点とすることは国際法違反ということになる。

 この仲裁裁判の結果は法廷拘束力を持つが、中国にそれを受け入れさせる強制手段はないため、中国は裁判の結果を受け入れることはないだろう。しかし、このような法的な手段が中国の行動に変化を与えないわけではない。たとえば、仲裁裁判所が岩礁の法的地位についての検討を始めた後に開かれた東アジアサミットで、中国の李国強首相は九段線に基づいて中国の主張を正当化しなかった。

 また、インドネシア政府が同国領であるナトゥナ島付近での中国船の活動をやめさせるために国際裁判を検討していることが明らかになると、中国外交部は同島の主権がインドネシアにあることを確認する異例の声明を出した。司法的な手段によって、中国の行動に一定の影響をもたらすことは可能だ。

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