2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年11月18日

 日本の失われた10年と、その間の景気対策を反面教師としてとりあげ、だからこそ、オバマ政権も経済有事を理由に政府支出を増やしても、景気浮揚にはつながらないという論法だ。

 「官」を上に置く風潮の強い日本人には感覚的にわかりにくいが、アメリカの保守層を中心に、とにかく政府に対する不信感が根強いことには驚かされる。本書でも、政府が余計な規制を導入したり、事業を運営したりすることに対し、幾度となく否定的な意見を繰り返す。

 例えば、政府が会社経営に関与するといかにだめかを示す実例として、今回の金融危機で実質的に破たんした政府系金融機関のフレディマックとファニーメイをやり玉にあげたり、政府が設立した鉄道会社アムトラックが1970年の創業以来、赤字を毎年計上したりしている実態を論じる。政府によるさまざまな干渉を受ける郵便事業USPSも取り上げるに至ると、かつての日本のような感じも受けるから不思議だ。また、反面教師として社会民主主義のフランスの経済政策の失敗をたびたび例にひくのも目をひく。

 とにかく、政府が民間経済に干渉するとろくなことはないというのは、アメリカ人の根強い信念のようだ。

 Big government, eat-the-rich policies may sound good in campaign commercials and sound bites, but history has proven that they always lead to the same disastrous place: a government that collapses under its own weight. (p190)

 「大きな政府、カネ持ちからカネをとる政策は、選挙のコマーシャルのキャッチフレーズでは響きがいいかもしれない。しかし、そうした政策は同じ破滅の場所に通じることは歴史が証明している。政府は自分自身の重さにたえられずに崩壊するのだ」

 つまり、オバマノミクスよろしく、政府が民間の経済分野に関与することが大きくなると、政府は破たんするというのだ。

 テキストブックの体裁をとる本書では、随所に小さなコラムやクイズコーナーを挿入している。Who said it? (これは誰が言った言葉でしょうか?) というコーナーでは、最近の著名人のコメントを取り上げ、いくつかの選択肢から選ぶ択一問題となっている。

 例えば、次のコメントが誰のものかおわかりだろうか?

 “The interaction between government and business will change forever. In a reset economy, the government will be a regulator; and also an industry policy champion, a financier, and a key partner” (p10)

 「政府と民間企業の互いのかかわり方は永遠に変わるだろう。リセットした(枠組みが変わった)経済においては、政府が管理者であり、産業政策をたて、資金も提供し、民間事業の主要なパートナーとなるだろう」

 この問題の解答として次の選択肢を用意している。

A ベネズエラのチャベス大統領
B GEのイメルトCEO
C ロシアのメドベージェフ大統領
D アメリカのガイトナー財務長官
E フランスのサルコジ大統領

 読者も正解がどれか考えて欲しい。政府の役割をこれほど大きく評価するコメントをしたのはだれか? もちろん、意外な人の口から出たからこそ、わざわざクイズになっている点はお忘れなく。

 答えは明日に、この原稿をアップデートしてお知らせします。

■解答(2009年11月19日公開)
  答えはB。世界最強の会社と呼ばれるゼネラル・エレクトリック(GE)のイメルトCEOだ。2008年版のGEのアニュアルリポートに掲載したイメルトCEOの文章からの引用だ。かつては、株式時価総額で世界最大を誇った、アメリカの市場主義を象徴する会社の経営トップでさえ、政府の役割を強調する発言をしている点を、本書の筆者グレン・ベックは皮肉っているわけだ。

 

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