なぜ、ふぐは美味いのか
ふぐは美味い。
しかも、料理法が実に多彩だ。肉は代表的なてっさ、てっちりのほか、唐揚げ、天ぷら、焼ふぐ、うに焼、湯引きなどでも楽しめる。加工食品としても、味噌漬けやみりん干し、燻製や茶漬けの素と数多い。白子やひれ酒など、可食部をそれぞれに工夫して、最高の楽しみ方を創造してきた。
皮もまた格別な味わいを持つ。トラフグには、特有の黒い斑点があり、ひとつとして同じ模様がないので、まるで“紋所”のようである。その上皮は、腹部の小さな棘をのぞいて、たっぷりの湯でさっと湯引いた後に冷水に放って冷やす。ゼラチン質のぷりぷりとした皮の食感は、ふぐならではだ。
ふぐの味を語る上では、最強の相棒「クエン酸」も忘れてはいけない。もっともよく使われるポン酢は、九州、山口地方では、ダイダイの絞り汁を用い、関西では、四国徳島の名産であるスダチを使うのが伝統とされている。
「ポン酢があることで、ふぐの味を引き立てるばかりでなく、鍋の白菜など脇役もぐっと美味しくなる。うちの店では、親父の代からここに梅肉を加えることでさらに風味と味をよくしています」
栄養素で特徴的なのは、良質なたんぱく質が豊富なこと。ふぐの肉100グラム中、20グラムがコラーゲン。脂肪分は0.1パーセントしかない。北濱さんは、良質のコラーゲンを摂るためにも、年に2回だけでもいいから、ふぐを食することを薦めているという。
まだまだわからないふぐ
北濱さんに「ふぐ博物館」を案内していただいた。
おなじみのふぐ提灯から、世界各国のふぐの玩具。ガラスに添付された表皮や化学薬品を一切使わない骨格標本など、ここにしかない貴重な資料がところ狭しと展示されている。取材依頼は世界中から。ふぐ提灯は、かのスミソニアン博物館に寄贈して、感謝されたという。
ぷーっとふくれた海の愛嬌者というイメージが強いが、小さな水生恐竜のような骨格標本からは、まったく違う印象を受ける。生物としてのふぐは、口に硬い4枚の歯を持ち、貝殻なども軽く砕く。触れたものにはかみつく性質があり、共食いもする。釣り上げたら、まず、この歯をニッパーで切らないと、漁師がケガをしてしまう。かなりの暴れん坊なのである。
「ふぐほど、イメージと実態が違う魚はありませんな。でも、かみついて、きついところがあるかと思うと、まぶたがカメラのシャッターのようにきゅっと閉じて、目をつぶる。可愛いんですよ(笑)。ふぐのことを知りたくて、学校や研究所に通い、招かれて海外にまで出かけてますが、まだまだわからないことだらけですわ。たとえば、ふぐが海で何を食べているか、全部はわかってないんです。でも、わからんから、ふぐは面白い。興味が尽きることはありません」
シーズンには、店の厨房に立ち、北濱流のふぐの味を伝えている。俳人「福庵」こと北濱さんの一句。
「河豚汁や講釈もまこと味のうち」
(本文中写真・荒井孝治)
■ふぐ博物館
住所:大阪府岸和田市北町10-2
電話:072-422-3929
開館時間:午前10時~15時/休館日:火曜
入館料 :無料、要予約
■ふぐ料理 喜太八
住所:大阪府岸和田市五軒屋町24-14
電話:072-422-3929
定休日:火曜/要予約
◆「ひととき」2009年11月号より
(続きはこちらでどうぞ)
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