高インフレはダメでも年2%のインフレならいいのか
このようにデフレが経済・社会にとって大きな問題だとしても、物価がどんどん上昇していってしまう高インフレが良くないものであることは誰もが知るところだ。人類の歴史に刻まれたハイパーインフレの事例に見るように、急激かつ大幅に物価が上昇すれば経済は壊滅的な打撃を受ける。戦後の日本では約3年の間に物価が約100倍に上昇した。今のお金で言えば、1億円の価値が月10万円の食費・光熱費の1000カ月分から、月1000万円の食費・光熱費のわずか10カ月分になってしまったということだ。
では、年2%の物価上昇であれば問題無いのか、なぜ日銀は年1%でも年3%でもなく「年2%」の物価上昇を目指すのか。日銀の黒田総裁は講演で、日銀は「物価の安定」を目指していて、「物価の安定」とは「年2%物価が上昇する状態」を意味する、とした上で、以下の3つの理由で2%の物価上昇を目指すとしている。
①日銀が物価を計るための指標としている総務省の消費者物価指数は、高めの数字が出てしまうという性質を持っているため、「物価の安定」を目指す際に、「実際に目標としている物価上昇」よりもある程度高めの上昇率を目標にする必要がある。
②景気に中立的な利子率(景気に対して金融引き締めにも、金融緩和にもならない水準の金利。自然利子率)を高めておくことで、景気が悪化した時に金利を下げて、景気を刺激することが可能になるため、目標とする「物価上昇率」を少し高めに設定する必要がある。
③欧米の先進国では年2%の物価上昇を目標とするところが多く、これは年2%程度のインフレが経験知としてバランスが良くグローバルスタンダードになっているということ。
①と②は「2%」であるべきということにはならないので、③の諸外国の例に倣ってという色合いが強いような印象を受けるが、ともかくこういった理由で日銀は年率2%の物価上昇という物価の安定を目指している。そして、その達成のためならばどんな手段でも講じるという強いコミットメントを示しており、それが国債買い入れによる量的緩和であり、マイナス金利の導入に至っている。