日銀によるマイナス金利政策の導入から1カ月以上が経過した。現時点までの評価としては否定的な意見のほうが目立つ。例えば、理屈の上ではマイナス金利に下限がないため、企業はさらに金利が下がるのを期待して設備投資や借入の時期を後回しにしようとする。少子高齢化が進む日本では先行きの不安心理を一層助長することになり家計は倹約・貯蓄志向を強めてしまう。現金だけはマイナス金利にならないので現金主義=タンス預金が増える……これらはすべてデフレ的な現象であり、マイナス金利導入で却ってデフレに逆戻りするのではないか、という意見が聞かれる。
実際に、先日全国銀行協会から発表された全国銀行預金・貸出金等速報(2月末残)では貸し出しの伸びが鈍化した一方で、預金は増加。都銀・信託の預金にいたっては前年比で5%台の伸びと過去最高に迫る勢いを記録した。おそらくまだ「金利がついているうちに」という駆け込み預金があったのではないかと推察される。マイナス金利とはおカネの置き場をなくして、世の中におカネを循環させて経済を活性化することを狙った政策である。ところが当初においては狙いとはまったく逆の動きとなっている。
マイナス金利で銀行が苦しいというのは本当か?
マイナス金利に対する否定的意見のなかで、もっとも多く、そしてわかりやすいものは、銀行の収益に大きな打撃を与えるという見方だ。世の中の金利体系全般に下方圧力がかかり、銀行の貸出金利も低下する。しかし、調達側の預金金利はマイナスにできず限界があるため利ザヤは圧縮される。これでは銀行にとって貸出を伸ばそうというインセンティブが生まれない。貸出は増加せず、銀行の収益面だけが痛むというマイナス効果しかないという批判がある。
金利全般がマイナスになっては銀行の業務に重大な支障があるのは確かだが、少なくとも日銀の当座預金金利をマイナスにすること自体は問題がない。そもそも銀行は預金者から集めたおカネ(つまり人様のおカネ)を日銀に預けるだけ(つまり何もしないで)しかもノーリスクで0.1%の(このご時世からすれば0.1%もの)金利をもらえるのだ。そのこと自体、「甘い」と言える。
しかも、すでに積み上げた250兆円もの当座預金はこれまで通り0.1%の付利がされる。マイナス金利が適用されるのはこれから新たに積み上げる分だ。それがマイナス金利になるから、経営が苦しいというのは甘えに聞こえる。銀行というのは集めたおカネを貸し出したり運用したりするその巧拙によってサヤを稼ぐ商売だ。それができません、というならその時点ですでに銀行という企業の存在価値がないではないか。