「借金は悪」
バランスシート調整で資金需要が弱い
先行している欧州ではマイナス金利導入で貸出が伸びた。日本については、欧州と比較しても経済状況が大きく異なるため、マイナス金利によるプラスの効果は期待できないとの声がある。日本は「失われた20年」で企業や家計に慎重姿勢が染みついている。金利がさらに下がっても資金需要は高まらないと見る向きが多い。
それは日本が1980年代バブルの後遺症、すなわち「バランスシート不況」をいまだに引きずっているからだ。バブルのときは、こぞって借金して株や不動産を買ったが、バブルがはじけて資産価格が大幅減少。負債は減らないから、結果的にバランスシートが限界まで毀損した。その時負った傷があまりにも大きかったために、「借金をして投資すること」が企業も家計もトラウマになった。だから、金利がゼロでも誰もおカネを借りようとしない。バブル崩壊以降、家計も企業も過剰債務の解消が最優先課題であったのだ。これが資金需要が弱い理由のひとつであり、同時にまたいくら金融緩和をしても効かない理由である。
卵が先か、鶏が先か 壮大な経済実験
これまで日銀が「量」を中心にした緩和策を行ってきた背景は、金利に働きかけることの限界があったからだ。金利がゼロ近傍まで低下してさらに金利を下げる余地がなかったということ以上に、金利をゼロにしても資金需要が高まらなかったことのほうが金融緩和の限界を示していた。
だったら「量」を強引に増やそうとしたわけだが、その試みは成功しなかった。だが狙いは悪くなかったように思う。つまり、どっちにしろ「壮大な経済実験」である以上、やってみなければわからない、という割り切りである。卵が先か鶏が先か、ということだ。つまり、資金需要がないからマネーが増えないのなら、強引にマネーを増やせば需要はあとからついてくるのではないか、ということを試そうとしたのではないか。
試してみたものの、マネタリーベースを増やしても、それが市中に流れるマネー(ストック)の増加に直結しないという理論通りの結果になった。銀行が信用創造を行わなければマネーは増えない。
だから今まさに信用創造をさせるべく、マイナス金利を導入して「銀行のキャッシュの置き場(=逃げ道)」を塞ぎにいったのである。ところが、ここでまた例の堂々巡りにぶつかる。銀行が貸さないのではなく、企業も家計も借りようとしない。資金需要が弱いから金利を下げても借り入れは増えないという議論だ。前述のようにバランスシート調整のトラウマが払拭し切れていないからだ。
しかし、今回のマイナス金利政策導入によって状況が大きく変わる可能性がある。なぜなら、「マイナスの金利という概念」は、これまで家計や企業に刷り込まれてきた「借金は悪」という考えを覆すものになるからだ。事実、早くも企業のなかには超長期の社債等で資金調達する動きが出始めた。民間の住宅ローンも借り換えが急増している。マイナス金利で極端に金利が低下したおかげで、それなりに資金需要が生まれている。