資本コストの観点から自社株買い増加
日本株相場の支えに
こうしたマイナス金利政策が推し進められていけば、「借金は悪」という考えから、「借金は得」という考えになるかもしれない。少なくとも企業の資本コストという観点からは、株式(自己資本)コストに対する負債(他人資本)コストの優位性が増す。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス強化の流れで、企業も株主還元を一層重視している。業績が悪化しても減配などそう簡単にできない。負債のコストは劇的に低下している一方、株式の資本コストは高止まりする。普通に考えれば、割高な資本である株式を買い戻すという判断が働く。ましてや今や、PBR(株価純資産倍率)は1倍そこそこである。簿価で買い戻せるチャンスだ。
スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス強化の流れで言えば、企業の経営者はかなりROE(株主資本利益率)への意識が高まっているだろう。すでに昨年の定時株主総会にかけた経営トップの取締役選任議案では、ROEの低い企業の賛成率が下がる事例が目立った。議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、過去5年間の平均値と、直近の実績がともに5%を下回る企業に対しては、トップの取締役の選任案に原則として反対することを推奨している。こうしたことを受けて機関投資家も議決権行使の基準を明確にする傾向が鮮明となっている。簡単に言えば、ROEを上げないと経営者のクビが飛ぶという危機意識はじわりと高まっているはずだ。
こうしたなか、円安・原油安効果の剥落もあって来期の業績拡大に赤信号がともっている。トップライン(売上)はもう伸びなくなっている。ボトムライン(利益)も減益になるかもしれない。利益が伸びない環境でもROEを高めるには自社株買いで分母を削ればいい。借り入れを増やして財務レバレッジをかけるのも一つの手だ。本来は、本業の利益率改善の努力なしにそうした小手先の財務テクニックでROEを上げても市場の好評価は得られない。しかし、現在の環境に鑑みれば正当化されるだろう。金利はマイナスで株価はPBR1倍そこそこ。この環境では負債を増やして自社株買いで自己資本を削ることの正当性が得られるだろう。
新年度が明けて、3月期の決算発表が本格化する4月下旬から株主総会シーズンの6月までの間には相当の数の企業が自社株買いを発表するだろう。来年度は過去最高を更新すると予想される。その自社株買いによる需給改善効果が日本株相場の支えになるだろう。加えて、日本企業が有効なキャッシュの使途を探り始め、その選択肢として株主還元強化を進めているという姿勢は、特に外国人投資家からの評価を集めよう。
日銀はもうマネーを刷る必要はない。すでに企業の手元にあるマネーを動かすことができれば、それはやがて設備投資やM&Aにも回っていくだろう。まさに活きたおカネの使い方となって日本経済が活性化する。マクロのファンダメンタルズ改善も無論、株式相場の支援材料である。
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