この他にも『習ターターVSビクビクの腐敗役人(習大大VS貪怕怕)』、『全国国民のアイドル習ターター(全民偶像習大大)』など、習近平主席が国内で推し進める反腐敗運動や積極的な外交を称賛する歌など、「習ターター」をタイトルに掲げる数々の曲が登場した。
どこまでが本気で、どこからが風刺なのか
従来、中国では情報だけでなく、歌や芝居といった演芸もプロパガンダの一環として、社会主義国家建設を国民に意識づけるための道具とみなされてきた。ファーストレディの彭麗媛も解放軍の歌舞団の歌手としてプロパガンダの先鋒を担ってきた人材だ。これまでは特殊な装置や選ばれた人材が必要だった文化の政治宣伝も、インターネットがここまで普及した今日、誰でもその気になればクリエーターになれる。今やスマートフォンが一台あれば民間人でも歌や芝居を制作できるようになった。
ただ、そうした時代の空気に便乗して民間人が作るコンテンツの多くは単なる娯楽性の追求や、注目を集めたいといった動機によるものが多い。そうすると、揶揄や風刺が効いていた方が、より世間の話題になりやすい。
次々に登場する「習ターター」ソングには、陳腐さ、クオリティの低さが逆に面白がられる作品も多い。
替え歌グループとして有名な「歪歌社団」が作った『主席の定食(主席套餐)』はまさにヘタウマな感じを売りにした曲だ。この曲は、2013年12月に習近平主席が北京の肉まん屋「慶豊包子舗」を訪れ、庶民が食べるランチセットを注文して食事をしたというエピソードを題材にしているが、映画『上海灘』の主題歌のメロディーに歌詞をつけただけの簡素な歌だ。
ロシアで2002年に『嫁に行くならプーチンのような人がいい』という歌が話題になったが、その習近平バージョン『嫁に行くなら習近平のような人がいい(要嫁就嫁習大大这様的人)』も登場した。さらにこの男性バージョン『人として生きるなら習近平のような人がいい(要做就做習大大这样的人)』という歌も作られた。この二曲はほぼ同じで、サビの部分の「嫁に行くなら」と「人として生きるなら」という意味の漢字一文字を入れ替えただけだ。
『陝北が習ターターを生み出した(陝北走出个习大大)』は「♪習ターター、国を愛し、身体を動かし汗を流し、習ターター、民を愛し、多忙を極めて休まず働く」とラップ調で歌っている。
これまで数々の国家礼賛「赤い歌」を作曲して歌ってきた素人歌手の「赤い服のおじさん」こと江西省の李磊さんも『我々は習近平を支持する(擁護咱們的習近平)』は人気を集めて、動画をネット上にアップしてから48時間で1万7000件の閲覧があった。しかし、李磊さんはかつて、2011年にアラブの春が起きた際にエジプトの市民革命を支持する歌を公開した「前科」があるため、習近平を「♪ひるむことない優れた船長だ」と高らかに歌い上げるこの曲も中国国内では閲覧禁止になってしまっている。