2024年4月19日(金)

メディアから読むロシア

2016年3月28日

 しかし、第二に、ロシア軍は完全にシリアから撤退してしまうわけではない。演説中で触れられているように、シリアには最新鋭のS-400防空システムを始めとする防空システムは残留すると明言されているし、人工衛星や航空部隊によるシリア政府軍への支援も継続するとしている。実際、これまでに撤退したのは戦闘爆撃機や攻撃機の一部に過ぎず、ロシアのシリア駐留部隊は依然としてかなりの規模でシリアのフメイミム空軍基地に残っている。

 これは停戦の対象外となる「イスラム国」や「ヌスラ戦線」への攻撃が継続されるためでもあるが、こうした反アサド勢力はいずれも航空部隊を保有しておらず、防空システムや戦闘機は本来必要ない。演説中、シリアの防空システム強化に触れていることも同様である。

トルコ、サウジをけん制

 であるならば、プーチン大統領が強調する「あらゆる目標」は、シリアの域外勢力であると考えられよう。ここで念頭に置かれているのは、昨年11月に国境地帯でロシア空軍機を撃墜したトルコ、そしてトルコのインジルリク基地に戦闘爆撃機を展開させたサウジアラビアであると見られる。トルコはロシア軍機撃墜以降、シリア領内への空爆は手控えており、サウジアラビアも空爆には踏み切っていないが、ロシア軍撤退後も反アサド諸国がシリアに介入することを許さないための手段が防空システムの展開なのだろう。

 また、プーチン大統領の言及したパルミラについては、折しもこの文章を書いている最中にアサド政権軍が奪還に向けた最終攻勢をかけているとの報が入ってきた。ロシア軍が航空支援を行っているとされ、「撤退」とは言ってもまだまだロシア軍による戦闘活動は続くことが予想される。

 しかもロシア軍は戦闘爆撃機や攻撃機の一部を撤退させる一方で、新型攻撃ヘリMi-28N及びKa-52を新たにシリアに展開させていると見られており、一方的にただ兵力を引き上げている訳ではないことにも注意する必要がある。

 停戦に違反すればただちに攻撃対象となるし、必要とあらばロシアは兵力を再増強できるという点も重要である。ロシアがシリア介入を開始した当初にも明らかになったように、ロシアはその気になればかなりの規模の航空部隊を短期間でシリアに展開させることができる。すでにシリアのフメイミム空軍基地には一定の受け入れ態勢が出来上がっている上に、ロシア本土の北オセチア共和国モズドクでは予備飛行場が拡張されて前進拠点として機能している。もちろん、これまでのように艦艇や爆撃機による巡航ミサイルを行うことも可能だ。

 このようにしてみると、プーチン演説は、アサド政権と反体制派に対しては停戦順守を、NATOやサウジアラビアに対してはシリアへの不介入を求めており、紛争のあらゆる当事者に対してクギを指すような内容であったとも言えよう。

 次回は、このプーチン演説後半を通じ、ロシア社会に向けたメッセージを読み解いてみたい。

  
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