また、演説中でプーチン大統領は「テロリズムがロシアを転覆することを防ぐ」ことを目的の一つに挙げているが、これもロシアにとって二重の意味で重要性を有していたものと思われる。
第一に、ロシアは中東や旧ソ連において相次いでいた体制転換が自国やその同盟国にも及ぶことを恐れており、シリアでその波を押しとどめたかった。第二に、シリア内戦にはロシアや旧ソ連諸国から多数のイスラム教徒が参加しており、こうした人々が旧ソ連内で武装闘争を活発化させることをロシア政府は恐れていた。それゆえに、崩壊寸前に陥っていたアサド政権を建て直して「体制転換」を阻止し、反体制派を追い詰めることはロシア自身の安全保障問題と捉えられたのだと考えられる。
重要なことは、プーチン大統領も述べているとおり、ロシアの介入が実際に一定の成果を挙げたことである。当初、筆者を含めてロシア軍の空爆は大きな成果を挙げないだろうとの見方も強かったが、実際にはロシア軍の激しい爆撃によってアサド政権軍はかなりの程度まで勢いを盛り返すことができた(この点は後述)。さらに、こうした成果を背景として、ロシアは米国や反体制派を和平交渉のテーブルに就かせることにも成功した。
この点は、「我々はそのような結果を残した」というプーチン大統領の言葉に表れているとおりである。特にロシアが米国とともにシリア停戦の保証人の立場を得たことは、今後のシリア和平をロシア有利に運ぶうえで大きな成果であったと言えよう。
シリアからの撤退とその影響は
では続いて、撤退とその影響についてプーチン大統領の発言を追っていきたい。
(翻訳)
尊敬する同志諸君! 反体制派と政府軍との停戦合意が結ばれた後、我が航空部隊の活動量は著しく減少した。戦闘飛行の回数は1日あたり60-80回であったものが、20-30回へと3分の1になった。
これにより、以前に編成された部隊は軍事的観点から過剰となった。我が軍人と装備の主要部分を撤退させるとの決定は、事前に通告を受けて支持を表明したバッシャール・アサド・シリア大統領との合意に基づくものである。
付け加えるならば、米露の共同声明においては、国連で認定されたテロ組織に対する戦いは継続するが、和平の用意があるシリアの武装勢力に対してはシリア軍が戦闘活動を行わないことを確認している。
これに加えて注意してもらいたいのは、もし我々が任意の集団の停戦違反を確認すれば、彼らを米国から提示されたリストから除外するということだ。当然、彼らには相応の結果が待っていることになろう。
これに関して、シリア共和国に残留する我が将兵の解決すべき課題を述べておく。
繰り返すが、それは何よりも停戦の遵守を監視することであり、シリア国内における政治的対話のための条件を確保することである。
依然として要員が勤務している我が展開拠点(タルトゥース及びフメイミム)は、陸から、海から、そして空から確実に保護される。短距離防空システム「パンツィリ」及び長距離防空システムS-400「トリウームフ」を含む全ての展開中の防空システムは常時戦闘体制を継続する。