ロシアが軍事介入していたシリアから軍の撤退を開始してから1週間が経過した。米国はじめ国際社会は電撃的なこの撤退に驚がくしたが、今もなおその真意を計りかねている。プーチン氏はなぜ、撤退を決めたのか。背景には、突然の決定で世界に衝撃を与えるプーチン流の秘密主義がある。
インナー・サークルで決定か
プーチン氏の14日の撤退発表は突然だった。同氏は「介入の任務は達成され、外交が取って代わるべき時」としてショイグ国防相に撤退を指示し、15日からロシア軍機の一部が帰還を開始した。2月末からのシリアの停戦が辛うじて順守され、ジュネーブでの和平協議が再開したのを見極めた決定だった。
米国のオバマ政権にも、シリアのアサド政権にも事後通告だった。ホワイトハウスの報道官は「直接的な事前の通知はなかった」とし、プーチン氏が発表後、オバマ大統領との電話会談で通告したことを示唆した。アサド大統領とも同様に発表後の電話会談で通知した。
ロシアは昨年9月30日の軍事介入の際にも、空爆開始の1時間前になって初めてイラクの米大使館に通告し、米側をあわてさせたが、「芝居じみた」(米紙)こうしたやり方の背景にはソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏の秘密主義がある。少数の側近だけで重要な決定をする「インナー・サークル政治」だ。
インナー・サークルのメンバーとして取り沙汰されているのは、ショイグ国防相、イワノフ大統領府長官、ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官、パトルシェフ元FSB長官らだ。彼らは90年代のクレムリンの情報漏れ体質を嫌悪し、政治には秘密主義こそ重要だと信じて世界をアッと言わせる手法を好む。
「シリアのゲームを操っているのはロシアであり、ロシア抜きでシリア問題の解決、ひいては世界の諸問題の解決はないことを誇示した」(アナリスト)ということだろう。オバマ大統領は「ロシアが遠からず泥沼にはまる」と警告していたが、プーチン氏が重荷になる前にうまく逃げ出したことでこの見通しは外れた。