少年たちへの指導後は、法務教官へのレクチャーの時間を作った。法務教官武田侑紀専門官は少年院における体育指導の意義をこう語る。
「心身の成長、善良な社会の一員として健全な生活を培わせるための体育指導ですが、社会から切り離されている生活の中では、それ以上に仲間同士のコミュニケーションであったり、チームワークであったり、思いやりの心を持つことであったり、人が集団生活をする上で一番大切なことをスポーツは教えやすいと思っています。
また、自己肯定感がとても低い子たちばかりなので、先生たちに褒めていただくと嬉しくなって、それをキッカケに伸びていくことも考えられます。私たちのように日常的に接している教官とは違って、外部の講師に指導を受けることは貴重な機会です」
外部講師とスポーツの意義
また、法務教官田添梓生専門官は、「大人との関わりがあまり得意でない子たちばかりなので、外部の講師との触れ合いはとても新鮮で、社会との触れ合いそのものでもあるのです。
スポーツから学ぶことは、たとえばパスひとつを取りあげてみても、相手が取りやすいことを考えてどこにパスを放ればいいのかとか、周りの状況を考えながら自分が持って前に出るとか、状況に応じていろいろなことを自分で考えながら、自分で行動することです」
それを受け佐藤淳次長はこう繋いだ。
「少年院では、普段の生活では当園職員以外の方々と共に話したり、笑ったりする機会が多くないものですから、最初は不安や緊張などもあって表情が硬いと思いますが、お互いの距離感を探りながら進めていただければいいと思います。彼らには彼らなりのコミュニケーションの取り方があったりするのですが、講師の方にはスポーツを通したコミュニケーションの取り方を教えていただければ、『そうか、こういったコミュニケーションの方法もあるのか』と学ぶ機会になりますので、我々とは異なる立場からご指導いただければありがたい」
最後に花岡からは、「指導中は褒めることが大切です。本来は選手の名前を呼んでから褒めるのですが、少年院では制約もあると聞いています。そこでニックネームではどうでしょう? それぞれ事前に自分のニックネームを考えて胸に貼っておいてくれれば、我々はそのニックネームで呼んで褒められますからね」というアイデアが出された。
花岡も土佐も、「こうした活動が少年たちの更生に役立つのであれば、ぜひまた機会をいただきたい」と積極的だった。
市原学園では近年、特殊詐欺(多くは振り込め詐欺の受け子)に加担した少年が急増しており、窃盗と傷害があとに続く傾向にある。特殊詐欺の被害はあとを絶たないが、こうした少年たちが利用され、犯罪を下支えする構図になっているようだ。