『ルポ・少年院の子どもたち』では過去に何度も水府学院のラグビー講座に触れてきたが、今回は昨年7月に他界された上田昭夫氏からバトンタッチされた栗原徹氏(NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス)と小浜和己氏(リコーブラックラムズ)という地元茨城県の出身者が加わり、天宮一大氏、片山吉規氏、大井清博氏と筆者の6名が講師を務めた。
講座内容や理念は上田の考えをベースに、天宮を中心に講師陣が毎回ブラッシュアップしながら構築してきたものだ。
そのベースとなった上田の考えとは、「スポーツを通して少年たちに子ども本来の笑顔を取り戻させたい。スポーツをしているときは家庭環境とか親とか、それぞれの少年たちが抱える負の要素一切を忘れて楽しむことができる。たとえ、その日だけであったとしても、少年らしい笑顔を取り戻させるのが我々外部講師陣の役割である」というものだ。
元ラグビー日本代表が繋ぐ水府学院のラグビー講座
ただし、「我々はラグビーを教える以上、ONE FOR ALL , ALL FOR ONEを基本的な精神として、自立と自律、責任感、自己犠牲の精神、勇気、チームワーク、尊敬と信頼、利他の心、奉仕の精神、ノーサイドの精神、あきらめない心を伝えたい。それは彼らが社会復帰するためには絶対に必要なことだから」という信念を持って臨んでいた。
しかし、講師陣は毎回指導後に反省点を口にする。上田や石塚(武生氏:上田昭夫氏の前の講師で元ラグビー日本代表)でさえもひどく落ち込んだことがあった。思いと現実のギャップに自分を責めるのである。少年院での指導はとても重く特別な時間なのである。
今回初めて(タグラグビー交流マッチには参加している)ラグビー指導に参加した栗原は、「今日は1人熱くなって退場した子がいましたが、ラグビーを指導している立場から言わせてもらうと、それは良い意味でエネルギーを持っているということです。そのエネルギーが悪い方に出てしまったがゆえに水府学院にいるのでしょうが、抑えつけるのではなく、良い方向に向かえば、その道で活躍するエネルギーになると思います」