2024年4月20日(土)

地域再生のキーワード

2016年7月9日

 東京から豊岡市に戻った田口幹也さんは、都会から迎える友人に城崎の良さを気づかせてもらった。そして、「おせっかい」から始まった取り組みが、国際的な舞台芸術、「本と温泉」へと広がっていった。

豊岡市城崎町 2005年に豊岡市、城崎町などが合併して豊岡市となった。人口は8.5万人で城崎温泉のほか、コウノトリの復活、鞄の生産でも知られる。
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 志賀直哉の短編小説『城の崎にて』で有名な兵庫県北部の城崎温泉。木造3階建ての旅館が並び、浴衣がけに下駄ばきの男女が、7つある外湯を巡り歩く。そんな昔ながらの日本の温泉街の風情を求めて、最近では外国人旅行者の人気も集めている。

 伝統的な温泉街に2014年4月、まったく新しい「顔」が生まれた。城崎国際アートセンター(KIAC)。温泉街の一番奥まった場所にある。

 新しく生まれたと言っても、よくある「ハコモノ」を新築したわけではない。もとは1983年にできた「城崎大会議館」という県の施設で、城崎温泉がある豊岡市に移譲された後も、年間20日しか稼働しない〝お荷物施設〟だった。それをアイデア首長として知られる中貝宗治市長の号令で一新して生まれたのがKIACだ。芸術家に一定期間滞在してもらい、創作活動を通じて町おこしにつなげる「アーティスト・イン・レジデンス」である。

 1000人が収容できる大ホールに6つのスタジオを備え、22人が泊ることができる宿泊室がある。公募で選ばれたアーティストは最短3日から最長3カ月まで滞在することができ、宿泊費やホール、スタジオの使用料は一切無料。その代わり、アーティストは、地元向けの公開リハーサル、住民との交流プログラムなどを行う。

 アーティスト・イン・レジデンスに取り組む市町村は全国に数多い。KIACの特長は舞台芸術に特化し、世界に目を向けたことだ。オープンすると舞台芸術家の間ですぐに評判となる。14年には映画女優のイレーヌ・ジャコブが滞在。2年目の15年度は4カ国16組がKIACを舞台に創作活動を展開した。振付家のルカ・シルヴェストリーニが城崎の住民たち約60人とコミュニティー・ダンスの作品を作った。16年度はすでに選考を終えており、7カ国から17団体がやって来る。

 もちろん、豊岡市が看板を掲げただけで、芸術家が集まってきたわけではない。舞台回しのキーマンがいた。

城崎国際アートセンターの大ホール(左)とスタジオ(右)

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