最近の中印の対立の火種は多岐にわたっている。領土問題で長く対立する中印両国は現在、経済での結びつきを強めつつあるが、そのことによって新たな対立が生じている。
たとえば、米紙ウォールストリートジャーナルは、前述の朝日新聞の記事とほぼ同時期に「21世紀の中国とインド、激化する摩擦」と題した記事を掲載した。
内容は、中印両国が領土問題に加え、経済問題でも火花を散らしているというものだ。記事は、インドが安全問題から中国産玩具、菓子の輸入を禁止し、タイヤや化学製品の反ダンピング調査にも着手していると伝えている。別の報道では、中国がチベットに水源をもつ川を堰き止めるダムを多数建設しているため、下流のインドでの水不足が将来深刻化し、中印間に「水戦争」が起こるだろうとの予測もあった。インドの識者の中には、「中国は数年後、インドに戦争を仕掛ける」との予測を述べる向きもある。
さらに、経済発展によって勢いを得た両国の軍拡競争も激化している。インドは最新兵器を次々と配備し、一方の中国は、スリランカの港湾整備を請け負ってインド洋上に軍用港を確保し、アルナーチャル・プラデーシュ州に至近の地域には軍用道路を整備してインドへの圧力を強めている。
これに関連して、インドの日本への接近を警戒する中国メディアは、ダライ・ラマ訪日のほぼ同じ時期、インドの防衛大臣が日本を訪問し鳩山首相と会談したことに敏感に反応している。
中印関係はかくのごとく複雑、国際政治はつねに打算づくめだ。何も、「ダライ・ラマ」だけが中印の火種となりうるわけでもない。他方、多くの「火種」を抱える中印両国が、こと環境問題においては、先進国に対抗するためタッグを組んで見せる。それほどまでに二大国はしたたかなのである。にもかかわらず、日本メディアの視点は相変わらず単眼的で、つねに中国の影響のみ強く窺わせる。日本政府はといえば、米軍基地問題で右往左往し、中印の現状など眼中にないかのようなレベルだ。
「中国が騒げば日本が踊る?」――そう揶揄される状態でいいはずはない。中印激突が現実化した時、日本は一体どうするのか? 「共同体」云々の前に、こうしたシビアな仮定に立ってアジアにおける日本の役割を冷徹に見定める必要があるのではないか。
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※次回の更新は、12月9日(水)を予定しております。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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