1950年代前半、旧ソビエトでこの研究はスタートしました。当初は宇宙飛行士用のトレーニングとして開発されていきました。狭い宇宙船の中で、孤独に作業をしていく過酷な環境下で、自分の心を自分でコントロールできるように、実践的なトレーニング法が開発されたのです。
1957年より、スポーツの世界への応用が始まります。オリンピックで金メダルを取るため、スポーツ選手用のメンタルトレーニングが開発されていきます。当時、スポーツはまだ「武器を持たない戦争」と理解されていたのです。旧ソビエトの威信を誇示する手段の一つとして、スポーツ・メンタルトレーニングの研究は進んでいきました。
その後、ソビエト連邦の崩壊に伴い、メンタルトレーニングの詳細な情報が世界各国に広がりを見せます。
ゼロからプラスへと導く
現在は世界各国で独自の進化や発展を遂げていますが、アメリカでもっとも盛んに実践や研究が行われています。私自身も、毎年北米を中心に開催される国際学会(国際応用スポーツ心理学会:AASP)に赴き、世界中から集まる最新の情報を収集してきました。この学会では、スポーツのみならず、教育用・健康用・ビジネス用・パフォーミングアーツ(ステージパフォーマンス用)、軍隊用、医療用などさまざまな分野に応用実践されたメンタルトレーニングの情報が飛び交います。すでに、心理面の強化法であるメンタルトレーニングは、日常の当たり前の領域となっているのです。
人間の心を扱う専門領域は、大きく2つに分かれます。心が健康な状態をゼロポジションとした場合、ゼロからマイナスの方向に傾いてしまうことがあります。これはいけないこと、恥ずかしいことではありません。心が風邪をひいてしまった状態になることは、誰しも起きうることであり、心も体同様風邪をひくことがあるのだと理解すればよいのです。この時、元の健康な心の状態へとサポートしていくのがカウンセラー、心療内科医、臨床心理士で、メンタルヘルス(心の健康)の領域として処方、療法、カウンセリングといった方法で、心の風邪へアプローチしてくれます。