台所、風呂、居間の順に火が点り、「家の方は全部問題ありません」と告げると、「よし! 風呂に入れる」と喜博さんに笑みがこぼれた。
喫茶店では心配そうな面持ちの早苗さんがカウンターの中で待ち構えていた。点火棒をカチッ、カチッと鳴らすとコンロには2つ青い円が浮かんだ。「一時は店を畳もうかとも考えたが、もうしばらくは頑張りたい」と表情が少し和らいだ。
次の災害に備え既に動き出す事業者たち
「コーヒーでもどうですか」との店主の労いを前嶋さんは丁重に断り店を出た。すると、すぐさま携帯電話を取り出し、プルダウンの選択肢をクリックしながら復旧状況の報告を始めた。東日本大震災のときは、1軒ずつ紙の報告書を書いていたが、疲労による誤記入も多く、集約に時間がかかっていたという。今回のように事業エリア外でも利用できるIT環境の整備が、迅速な復旧計画や正確な被災者への情報提供にも役立っていた。
また、応援部隊とは別に、協会や事業者からは調査隊も現地入りしている。「客観的な視点で被害が大きかった地形や管種を分析し、次の地震が発生した場合にどこから手をつけるかの判断材料にする」(前出の瀧川隊長)という。災害大国日本の事業者は、来るべき次の災害を見据えて、既に動き出していた。
復旧には当初3週間を要すると見込まれていたが、「ガス管の損傷が想定より少なかった」(西部ガス)ため、予定が1週間早まり30日に復旧を果たした。
熊本地震では都市ガスだけでなく、ライフラインの早期復旧のために、電気や水道でも全国の同業者が被災地に駆けつけた。約600人の応援があった電気は20日に、約2000人の応援があった水道は30日に復旧した。
事業者は過去の災害復旧でうまくいかなかった作業の訓練を行ったり、設備の更新時期に災害に強いものに置き換えたりと、日頃から異常時に備えてきたという。こうした積み重ねもあり、本震から2週間という短期間でライフラインがよみがえったのだろう。
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