2022年10月6日(木)

秋山真之に学ぶ名参謀への道

2009年12月19日

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 戦争はいかなる場合に起きるか。甲乙両国が同一方面に利権を「伸長」、一方が他方を「侵害」「防衛」「回復」「妨害」「予防」、さらに第3の丙国の「干渉」が加わって錯綜する。

 たとえば、先の大戦で日本は「アメリカ合衆国が大日本帝国の中国大陸への利権の伸張を妨害している」とみなした。これは秋山流「潜因」の第5のケースに当たります。しかし「潜因」があってもただちに開戦とはならない。双方の「勝敗の判断」が加わってはじめて顕在化する。秋山真之はそこに5種類のケースを想定しています。先の大戦を日本側からみれば、第4の「対抗両国の一方がその武力の優勢を恃んで、他方に対し不当の要求を出し、交戦を強いる場合」に当たる。アメリカ側からみれば、第3の「対抗両国の一方が他方の武力を誤算して、相手を屈しうると誤信して、外交交渉で譲歩しない場合」に見えたでしょう。

 平成の企業参謀に考えていただきたい。この秋山流「種類ト起因」は戦争だけではない。経済抗争にも当てはまります。80年代の日米経済摩擦はどうであったか。これからの米中経済摩擦はどうなるか。

 『孫子』の五事七計

 秋山真之は『海国戦略』の第2章で「平時戦略」と「戦時戦略」を説きました。時間の制約もあって、そのほとんどは『孫子』冒頭の「五事七計」からの引用です。

 「兵トハ国家ノ大事ナリ。死生ノ地、存亡ノ道、察セザルベカラズ。故ニ之ヲ経(はか)ルニ五事ヲ以テシ、之ヲ校(くら)ブルニ七計ヲ以テシテ、其ノ情ヲ索(もと)ム」。この五事とは「道・天・地・将・法」の五つです。七計は列記してみましょう。

一、主(君)ハイズレカ有道ナル?
二、将(軍)ハイズレカ有能ナル?
三、天(の時)地(の利)イズレカ得タル?
四、法令イズレカ行ワル?
五、兵衆(軍隊)イズレカ強キ?
六、士卒イズレカ練(なら)イタル?
七、賞罰イズレカ明ラカナル?

 あなたの企業が「抗争」している相手はだれですか? 彼我のポジショニングを五事七計で明察してみてください。ここで付言しておきましょう。戦後に著された数ある戦略論のなかで、もっとも優れているのは、イギリスのBasil Liddell Hartの『STRATEGY』(1954)でしょう。その表とびらに古今東西の軍略家のことばが引用されています。計18条のなかで、ナポレオンもクラウゼウイッツもモルトケも1条だけですが、孫子からはじつに12条が採られている。『孫子』は世界最高の戦争論古典です。平成の企業参謀にとっても必読の書です。

 「五事七計」の講義を終えた秋山教官は『海国戦略』をしめくくりました。「さてこれ以上、つけ加えるものは、なにもありません」敬礼をうけて講壇を去り海へもどっていく秋山真之は、沈痛な面もちであったと伝えられています。その3カ月余あと連合艦隊は出動し、1年7カ月あと日本海海戦の奇蹟が起きました。

 じつは『海国戦略』のなかに、もうひとつ秋山真之の重要な自戒のことばがあります。「大戦略は一国の頭首の定められるところであり、軍人参謀が研究すべきは、大戦略ではなくして、戦争の範囲内における戦略に限る」。

 最終回では、この「大戦略」と、そのさらに上の「天佑神助」をとりあげ、秋山流軍学の全体像を明らかにしましょう。

◆『甦る秋山真之』(上・下巻)

 

 

 

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