2024年4月25日(木)

対談

2016年6月22日

久松:若い頃に養鶏もやっている先輩農家のところで、そこの研修生と「酪農ヘルパーみたいな人を雇って3日に一度でも交代してもらえば、効率が改善するんじゃないか」と熱っぽく話していたことがあったんです。毎日世話をして、卵を採るのは大変な労働だから合理化できる部分はしたほうがいいんじゃないかと思ったんですけど、でも先輩は「違うな」と言うんですね。3日に一度しか入らなかったら異常を察知できなくなる。卵を毎日採るのは大変だけど、それでもやれる人でないと生き物は扱えないんだ、と。「“商いは飽きない”というくらいで、飽きる奴は初めからするな」と言われて、僕ら若造はシュンとなった(笑)。

 飽きない力を持つことは難しい。一つ覚えを続けることは、一種の特殊技能なのかも知れない。左藤さんは俯瞰の視点を保つことで、飽きないように自分をコントロールしているようにも思えるんですが。

左藤:それもありますが、常に目の前に人参がぶら下がっているような感じです。改良する点はいつでもあるから、それを乗り越えるのが楽しい。でもルーティンは嫌いです。そこだけをやってくれる人を育てたいくらい(笑)。

“途中まで昨日と同じような失敗を繰り返していたが、どうせ駄目だろうと思いながらやり方をちょっと変えるとそれが大当たりで失敗の原因が判明。一工程省いて省力化しようとしたのが悪かった。判明してみると大きな謎は安い人生訓みたいに輝きを失う”
『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』より)

左藤:作ることだけじゃなくて、道具を工夫して改良するのも好きです。やり方を考え直して根本的に変えてみるのも、実行する日はすごく楽しい。改良がうまく行こうが失敗しようが、その部分がなかったらきついです。

久松:元旋盤工の作家、小関智弘さん(著書に『粋な旋盤工』『春は鉄までが匂った』など)の本を読んでいるみたいですね。

左藤:小関さんの影響は受けていますね、すごく。

 スケジュール管理は妻にしてもらっているので、「今日は何個できた?」と聞かれるんですけど、それがすごくイヤで(笑)。単にはかどらなくて8個しか作れなかったのと、もっと良くしようと練習した結果としての8個は違うんだ、と言いたい(笑)。少しずつ良くしているつもりですけど、傍からみたら静止しているかのように同じものを作っているように見えるでしょうね。

 でも、同じものを作っているとだんだん悪くなると思うんです。自分では伸びている、磨きがかかっていると思うときに、現状維持と同等の評価をされるんでしょうね。「同じものを作り続けていてえらい」と言われて落ち込んだことがあります(笑)。きっと褒め言葉だったんでしょうけど。

久松:変えないと陳腐化しますよね。よくわかります。


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