「小商い」を、強くて持続的なビジネスにするために必要なものとは何か――。
フードサービス界の巨人、日本マクドナルドが負のスパイラルに落ち込んでいくのと時を同じくするように刊行された著書『マクドナルド 失敗の本質 賞味期限切れのビジネスモデル』(東洋経済新報社)が話題の経営学者と、「小さくて強い農家」であるためのノウハウを著書『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)で惜しみなく公開した農園主の対話は、日本の高度成長を支えた理論の限界を指し示すものになった。
小売が輝きを失った時代
久松:小川先生がいきなりうちの農園に来てくださったのは、『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)を出した後でしたよね。
小川:農業関係で面白い本があると僕に教えてくれる方がいて、その人に薦められて読んでみたらすごく面白かったんです。面白いとすぐ著者にメールしたり、現場に会いに行くのが癖みたいになっているんですよ。
以前はオーガニック産品の流通の研究をしていたので、久松さんの「結果として有機だった」という考え方が面白かったし、なんとなく納得できた。キャリアも面白いし、人間も面白そうだし、と興味を持ちましたね。
久松:小川先生もそうだけど、たまたま注目してくださった人が、またいろいろな人を紹介してくださるので、そのたびに責任も感じるんですよね。
上のステージに引き上げてもらうということは、同時に、果たすべき役割があるということなんだなとつくづく感じますね。自分だけがうまくいってもしょうがないし、自分の農園なんてどうやったってスケールしないし(笑)。
小川:でもそれは別の形でスケールする、そういう可能性を持っている。僕は実務家ではないので、実現する可能性を持っている人を見つけて繋げて、広げることが使命だと思うんですよね。ある種のネットワークハブだから、僕は僕で責任があるんですよ。知ってしまったら知らせないといけない。
久松:結節点としての責任。
小川:社会的な責任だと思っていますね。『マクドナルド 失敗の本質 賞味期限切れのビジネスモデル』(東洋経済新報社)も同じ。書いてしまったことの責任を負う。旧来のチェーンストアはもう賞味期限切れだと言うのなら、代替案も出さないといけない。逃げられない。必死ですよ。いくらでも石が飛んでくるし、取材源に迷惑をかけることでもある。
久松:サービス業や小売は、メディアからの批判にすごく影響を受けるところもありますしね。そういえば先生のゼミから小売に就職する学生さんって、あまり多くないそうですね。