2024年11月22日(金)

対談

2016年6月22日

左藤:体がきつい?

久松:頭で考えていたことと現実との違いに、肉体の疲れも伴って疲弊しちゃうみたいですね。

 会ってみて「すごくいいな」と思った子が、体験に来て夕方にシュンとしている。どうしたの? と聞くと「僕はみなさんのように真摯に仕事に向き合えない」と言うんです。僕の本を読んで、ぜひチームに入れてくださいと言って来た奴が、ですよ。俺たちは本当に異常なんじゃないかとこっちが落ち込んでしまいました。

 うちはクッタクタになるような仕事って、年間通じてそんなにないんです。だからそんなハードな仕事はさせてないし、一人にもしない。

左藤:イメージと違ったんでしょうね。

久松:そう思いますね。やっぱり農「業」が好きで野菜は好きじゃなかったんでしょうね。野菜が好きなら、工程の習得は好きなものを作る手段になるわけだから。裏返せば、野菜そのものの魅力を、僕が語れていないということでもあるのかも知れない。工程や合理化については語れていても、野菜そのものや、売ることの魅力はまだ伝えられていないから、実際に来るとギャップがあって一日でシュンとしてしまうのかも。

左藤:それだけ期待があるからでもあるでしょうね。山の中の産廃処理施設でバイトしていた時期もあるんですけど、辛くても一度もシュンとしなかったのは、別にその仕事に何も期待していないから(笑)、楽しくない仕事をしてもまったくヘコまない。

 作るものが好きじゃないというのもでかいですよね。コップを嫌いな奴がガラスをやっても100%成功しない。実際にそういう人、いるんですよ。ガラス工芸の学校を出ていても、そこで勉強するガラスと生活用品としてのガラスは違うから。溶けたガラスをいじっているのが好きという人もいて、それもけっこう困るんですよね、器は溶けてないから(笑)。いくら溶かしてもお金にはならない。

久松:動物をひたすら愛でていたい人は、たぶん動物園には採用されないでしょうからね(笑)。

左藤:僕のところにもたまに弟子入り志願の子が来るんですけど、それまでに作ったものを持ってきたのは一人だけでした。その女の子が持ってきたのは金属の作品でしたけど、完成イメージの絵でも何でもいいと思うんです。拙くても、「こういうのを作った」「こういうのを作りたい」というものを見せるのが一番いいし、当たり前だと思うんですよね。(つづく)


左藤玲朗(さとう・れいろう)
1964年大分生まれ。立命館大学文学部卒。沖縄「奥原硝子製造所」などで経験を積んだのち、2001年、兵庫・丹波に「左藤吹きガラス工房」を設立。2009年に千葉・九十九里に移転。2015年には文筆家・木村衣有子が左藤に取材し執筆した『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』(亜紀書房)が刊行された。

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は著書『小さくて強い農業をつくる』https://goo.gl/lsIoXw (晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

  
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