“ツァー”に跪いた“スルタン”
こうした中で、エルドアン政権はこのほど、関係が悪化していたロシア、イスラエルとそれぞれ和解に踏み切った。ロシアとは昨年11月のトルコによるロシア軍機撃墜事件以来、断交一歩手前まで険悪化。プーチン大統領はトルコへの経済制裁を発動した。
トルコにとって痛かったのは、ロシアがトルコからの一部農産物の輸入を禁止し、ロシア人観光客のトルコ入国を制限したことだ。特にロシア人観光客はドイツ人に次いで多く、毎年400万人が訪れていたが、これがほとんどゼロにまで落ち込んだ。
アラブの経済発展モデルとされてきたトルコだが、外交的にはロシアだけではなく、ぎくしゃくしている国が多く、孤立感を深めているというのが実態だ。ロシアとともに関係を修復したイスラエルとは、2010年のパレスチナ自治区ガザへの支援事件をめぐって対立していたし、エジプトともモルシ前政権を肩入れしていたことから、シシ現政権とは外交関係が凍結状態のままだ。
また米国とはシリアのクルド人との関係をめぐって対立、欧州連合(EU)ともトルコ人のビザなし渡航やEUの加盟交渉が難航する一方、エルドアン政権による言論弾圧などに対するEUの批判が高まっている。
エルドアン大統領はロシアとイスラエルと和解することによってこうした外交的な孤立からの脱却を図ろうとしたようだ。プーチン大統領に書簡を送って撃墜事件を謝罪し、ロシア軍機から脱出したパイロットを殺害したトルコ人を訴追することを約束するなどロシア側の要求を飲んだ。
「スルタン(トルコ王朝の君主)がツァー(プーチン皇帝)に跪いた」(ベイルート筋)という、強権的なエルドアン大統領にとっては屈辱的な譲歩をする形になった。
しかし、今回のテロでトルコの治安の悪化が世界中に喧伝されることになり、外国人の足が一段と遠のくのは必至。観光産業の回復は望めそうにない。エルドアン大統領の苦境はさらに深まることになりそうだ。
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