トルコ最大の都市イスタンブールのアタチュルク国際空港で28日に起きたテロの死傷者は280人を超え、昨年の首都アンカラの自爆テロに次ぐ被害規模となった。エルドアン政権はテロの直前、対立関係にあったイスラエル、ロシアと和解し、ドル箱である観光産業の立て直しを図ろうとしていただけにその衝撃は大きい。
崖っぷちの観光立国
トルコ国内では昨年夏以降、隣国シリアに拠点を置く過激派「イスラム国」(IS)と反政府クルド人の「クルド解放のタカ」という2つの組織によるテロが相次ぎ、市民ら270人以上が犠牲になった。2組織とも動機については、トルコ政府に対する報復という点では同じだ。
エルドアン政権は昨年、ISへの攻撃に消極的な姿勢からISの壊滅を積極的に目指す方針に転換、ISに対する空爆と越境砲撃などに踏み切った。また、それまで許してこなかったインジルリク空軍基地の使用を米国に認め、米軍機は同基地からISの拠点に空爆ができるようになった。トルコ政府が当初、IS攻撃に消極的だったのは、ISの報復によって治安が悪化するのを恐れたためだ。
このトルコの懸念はしかし、現実のものになった。ISは昨年7月、南東部スルチで爆弾テロを起こしたのを手始めに、10月10日にはアンカラ駅近くで約100人が犠牲になった自爆テロを実行。今年に入ってもイスタンブール中心部の観光名所で自爆テロを起こし、ドイツ人観光客10人が死亡した。
ISのテロ激化には、自分たちへの攻撃に対する報復と同時に、トルコ国内に恐怖と社会不安を巻き起こし、IS攻撃の矛先を鈍らせようという狙いがある。ISはトルコ国内に難民などに紛れ込ませて6000人に上る休眠工作員を潜伏させているともいわれており、テロのリスクは高まる一方だった。
今回のテロは犯行声明が出ていないものの、ユルドウルム首相が指摘したように、ISの可能性が高い。空港という人の集まるソフト・ターゲットを標的にし、銃撃と自爆で無差別に殺りくを実行する手口はISの得意とするところだ。
「クルド解放のタカ」も今年2月以降、アンカラなどでテロを頻発させているが、主に狙っているのは軍や警察の車両や施設だ。民間人の巻き添えを厭わないものの、市民の無差別殺りくを目的とするものではない。クルド人反体制勢力への政府軍の空爆などに対する報復の意味が強い。
しかしこうしたテロの頻発により、外国からの観光客が激減し、トルコの経済を支える観光産業は大きな打撃を受けている。例えば今年5月の外国人観光客は約250万人だが、昨年同期と比べ35%も減った。1990年以来、最悪の下げ幅だという。
観光業への就労人口は全産業の1割弱で、観光客激減の影響は大きい。特に今回テロが起きたイスタンブールには、有名なトプカプ宮殿やブルーモスクなどの観光名所が集まっており、トルコは観光立国として崖っぷちに立たされている。