イラク軍は首都バグダッド西方に残っていた過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点、ファルージャを2年半ぶりに解放した。ISに占領されて残っている都市は北部のモスルだけとなった。米国の支援を受けるイラク軍はモスル攻略を開始したが、モスルを奪還した後の支配をめぐって権力闘争やイランの影もちらつき、見通しは予断を許さない。
「あっという間に崩壊」
ファルージャはバクダッド西約65キロのところにあるアンバル州の要衝。ISは2013年末から支配下に置き、首都に近いことからイラクにとっては目の上のこぶのような存在だった。
この町は米国にとっても因縁の土地だ。イラクに侵攻した米軍が2004年、この地で国際テロ組織アルカイダ系の過激派と激戦を展開。海兵隊員約100人が死亡、数百人が負傷し、イラク戦争中の戦闘では、最大の損害を被ったスンニ派の牙城である。
イラク軍はファルージャ奪回に先だって、アンバル州の州都ラマディをまず制圧。こうしてファルージャの補給路を断ち、5月末から本格的に進撃を開始した。立てこもっていたISの勢力は約1000人。IS側はバリケードを築き、わな爆弾を至るところに仕掛け、自爆攻撃を敢行した。わな爆弾は500メートルの間に約20カ所も設置されていたほどだ。
イラク側が手を焼いたのは市内に縦横無尽に張り巡らされたトンネル網だ。トンネルには武器の貯蔵用の小部屋や電灯も完備され、ISはトンネルを使って進撃するイラク軍の背後に回り、ゲリラ攻撃するなど抵抗した。米軍の訓練を受けたイラク特殊部隊がトンネルの出入り口を次々に爆破していった。
6月16日ごろからISの抵抗が急速に弱まり、イラク軍は翌日、中心部にある市庁舎に旗を立てた。さらにISが作戦本部に使っていた病院の建物も包囲、一部で激しい抵抗が続いているものの、ほぼ制圧することに成功した。
イラク軍の高官は「ISはあっという間に崩壊した」と成果を誇示し、アバディ首相も「ISに居場所はない」と勝利宣言した。ISは市の西近郊で再結集、立て直しを図っているが、もはや反撃する力は残っておらず、生き残った戦闘員はシリア方面に逃走を図っているようだ。
市内には9万人の市民が残留していたが、ISは米空爆などから自分らを守るために、市民を“人間の盾”として利用、市からの脱出を図る市民をバイクなどで追い回し、無残に射殺した。空爆やイラク軍の砲撃によっても相当数の市民が犠牲になったと見られている。
国際機関によると、約6万8000人の市民が現在、ファルージャからの脱出途上にあるが、水や食料、医薬品が決定的に不足している。一方でISの戦闘員の一部も脱出した市民に紛れ込んでいる疑いが濃厚で、イラク軍はこれまでに7000人を拘束、うち1500人がISに関連があるとして調べを進めている。
しかし市民のほとんどはスンニ派であるのに対し、イラク軍のほとんどはシーア派教徒。宗派対立からスンニ派市民への虐待が懸念されており、イラク軍に拘束された後、行方知れずになっている人たちもすでに大勢いる、とされる。