2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年7月14日

 中国政府は当初から、裁定の結果を一切拒否する方針であった。しかしここまでくると、騒げば騒ぐほどいわば「無法国家」としてのイメージを国際社会に定着させていくだけで、中国の国際社会からの孤立はますます進むだろう。そして今まで、南シナ海における中国の行動を厳しく批判しそれを阻止しようとしてきた米国や日本及び周辺関係諸国は、今後一層中国の無法的な行動を封じ込めようとするだろう。未曾有の窮地に立たされたのはどう考えても、中国の習近平政権である。

「日米陰謀論」? その根拠は…

 習政権は今後、一体どのようにして窮地から脱出して体制を立て直そうとするのだろうか。実は、裁定公表の直前から現在に至るまで、中国政府と配下の国営メディアが放った一連の反撃の言説から、彼らの考える対応策の概要を垣間みることができる。

 裁定に対する中国側の批判や反発の言説の特徴の一つが、裁定を米国が主導して日本が加担した、「外部勢力の陰謀」だと決めつけている点である。

 たとえば7月8日、人民日報の掲載論評は来るべき裁定について、「仲裁裁判所の裁定は提訴から裁定までのプロセスのすべてが、アメリカがアジア太平洋地域における自らの主導的地位を維持するために設けた一つの“罠”だ」と論じて、アメリカこそが裁定の「黒幕」であるとの珍説を展開した。

 7月11日、裁定公表の前日、人民日報は再び裁定に関する論評を掲載したが、その論評も明確に、フィリピン政府による提訴の背後にアメリカの「アジア回帰戦略」があったとの見方を示し、「アメリカ黒幕説」をより具体的に展開した。

 同じく11日、国営通信社の中国新聞社も裁定に関する記事を配信したが、最後の部分で専門家の話を引用する形で、「南シナ海に関する今回の裁定は、アメリカの政治的操作の結果である」と結論づけた。

 同日、もう一つの国営通信社である新華通信社も裁定に関する長文の「検証記事」を配信したが、冒頭から、「今回の裁定は、アメリカがその背後で操り、フィリピンがその主役を演じてみせ、日本が脇役として共演した反中茶番である」との見解を示した。「アメリカ黒幕説」をさらに肉付けたものであると同時に、日本までを「陰謀」の加担者として引きずり出したのだ。

 こうして中国側は「アメリカ黒幕説」の一つの形を整えたつもりかもしれないが、その根拠はあまりにも脆弱である。


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