チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年7月14日

»著者プロフィール

アメリカと関係を深める各国

 しかし、この虫の良すぎる計算が思惑通りになるかどうかは実に微妙だ。柳井俊二氏の存在と働きだけを根拠にしてアメリカを「黒幕」に仕立てるのはあまりにもいいかげんであり、国際社会を信頼させることは到底無理であろう。政府の情報遮断と洗脳にさらされている中国国内の一般市民以外、誰もそんな出鱈目を信じはしない。中国政府の宣伝は結局、自国民を欺く以外にほとんど効果がないだろう。

 そして、アメリカを「黒幕」に仕立てた以上、習近平政権は今後、より一層厳しい姿勢でアメリカと対峙していかなければならない。それは、アジア太平洋地域における中国自身の孤立に拍車をかけることとなろう。

 現在のアジアでは、日本が米国との同盟関係を強化しているだけでなく、一時「親中」と言われた韓国も、中国からの反対を押し切ってアメリカから最新型迎撃ミサイルの導入に踏み切った。「中国一辺倒」の偏った外交から脱出して親米へと再び戻ったと言えるだろう。東南アジアでは、同じく南シナ海の領有権問題で中国と対立しているベトナムも最近、アメリカからの武器禁輸全面解除などの「特別待遇」を受けて、関係緊密化を急いでいる。

 このような状況の中で、中国がアメリカと全面対決の姿勢を明確にすればするほど、中国から離れたり距離を置いたりする国はさらに増えてくるであろう。

 つまり、窮地から脱出するためにアメリカを「黒幕」に仕立てる習政権の策は逆に、中国にとってますます窮地を作り出しかねない。結局自らの首を絞めることとなるだけである。

フィリピンとの直接対話に賭ける中国

 そうすると、中国にとっての最後の「起死回生策」は結局、裁定のもう一方の当事者であるフィリピンと直接対話による解決を図ることである。

 習政権にとって幸いなことに、南シナ海裁定が出る前から、フィリピンで政権交替があり、中国に強硬姿勢のアキノ政権から今のドゥテルテ政権に変わった。そしてドゥテルテ新大統領は度々、中国と対抗ではなく対話の道を選ぶとの発言をしている。

関連記事

新着記事

»もっと見る