そうめんのあの細さ。
なのに、1本1本、それと分かるコシの強さ。1本のそうめんであることを自己主張しているような、しっかりとした味わい。 なのに、すっと喉を過ぎていく心地よさ。ほっこりと温まる気持ちの良さ。
ラーメンやパスタ、あるいはうどんを食べる時には、コシがどうだと理屈の一つも言っていたものが、そうめんとなると、喉越しだけのものだと思っていなかったか。
違うのだ。そうめんのあの細さでも、適切に茹でて、水洗いして、さらに上手に温めたら、ちゃんとした食感を楽しむことが出来る。素晴らしいコシが、食感があるものなのだ。
そんなことを自覚したのが、「麺ゆう館」でのことだった。そうめんの手延べを体験出来るところである。体験の前に、温かくしたにゅうめんを食べて、実感したのだ。麺のゆで加減には気を使っていたつもりだが、これほど繊細に違うとは。目から鱗。
食欲が落ちた夏場に、喉越しの良さだけで、食欲を鼓舞する食べ物かと思いきや、冬場でも、温かいにゅうめんとして、良く出来たうどんや蕎麦に負けぬ、季節を超えた味なのだ。
ところで。そうめんが夏の季語であることは、クイズにもなるまいが、「そうめん干す」ならどうか。
これ、冬の季語なのである。そうめん作りは今が最盛期なのである。
そして、そのそうめんのルーツといわれる場所が、桜井市の三輪地区である。奈良市の南にあたる。
桜井市内には三輪山がある。日本最古の神社の一つともいわれる、大神〔おおみわ〕神社がそれである。その祭神はそうめんの神様でもある。
そうめんは中国から奈良時代に伝えられた小麦の粉食を起源としている。とはいえ、大神神社の緑深い境内を歩き、寒風に吹かれて、清らかな水を飲んでから見ると、この地で育った文化でもあると思う。
奈良時代から積み重ねられた歴史と名水。そして、盆地であるがゆえに冬場は寒い。気温が低くなると少ない塩分での製麺が可能となるのだ。それでコシが強くなる。