いずれ世界の食品は合成に頼らざるを得なくなる
リー氏は「いずれ世界の食品は合成に頼らざるを得なくなる」と考える。発展途上国での食料不足は深刻で、中国やインドの人口が今以上に増加し、この2つの国が先進国の仲間入りをするほどの経済発展を遂げれば、特に高級食材の価格は高騰する。クローンワインはそのような未来に対応できるものだ、という。
ワインだけではない。成分を分析し、その構成要素を人為的に再構築する、という手法はほぼどのような食品、飲料にも対応できる。実際合成肉の研究は各国で進んでいるが、リー氏は嗜好品の要素が強いもの、例えばチョコレートやコーヒーにこの手法を適用することも将来には視野に入れている。チョコレートのカカオ豆、コーヒー豆は世界的に不足傾向にあり、今後価格の高騰が見込まれるためだ。
ただしワインだけでも世界には数百、数千のブランドがあり、その中で人々に好まれる高級品だけを選んでもクローニング対象は多い。会社が一定の軌道に乗り、生産するワインブランドも決定した後で、他の食品クローニングにも取り組む、というまだ先の長い話ではある。
リー氏はクローニングについて「オリジナルを冒涜するものではなく、比較的安い価格でオリジナルと同じ”体験”を広め、結果としてオリジナルの価値を尊重するもの」と語る。「モナ・リザのレプリカを飾っている人は多いが、それによってオリジナルのモナ・リザの価値が下がることはない。ワインのクローニングもそれと同じだ」という。
クローニングワインが市場にどのように受け入れられるかはまだ未知数だ。しかしキュービック・ジルコニアがファッションアクセサリーの要素として広く受け入れられ、「ダイヤではないがダイヤと同様の輝きを持つ」と認識されているように、「有名ワイナリーの味が手軽な価格で楽しめる」飲み物、として普及する日は遠くないかもしれない。
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